初めての移動運用


 それは俺が中学2年の3月のことだった。
アナカリスさんが鹿児島の大学に行くことになり、それに備えて車の免許を取得した。実は3.70学生集団は、中高生を中心に活動していたため、それまでは車の運転のできるメンバーがいなかった。
そういうわけで、みんなでいっしょにどこかに行くということは少なく、もっぱら無線だけでのお友達という感じだった。
もちろん地元の先輩であるKさんとは、よく遊んだりしていたが、彼と遊ぶときにははるばる自転車で彼が俺の家まで遊びに来ていたので、あまり頻繁に遊んでいたというわけではなかった。
 そんななかのアナカリスさんの免許取得だったので、メンバー全員すぐに
「じゃあ、今度車で遊びに行きたい!」
という話になった。もちろん無線仲間がそろって車を出して遊びに行くということは、山などの高いところや、河原などの障害物の少ないところなどの電波のよく飛ぶ場所に無線機を持ち込んで遊ぶということだ。
 しかし、俺の地元のS市から車を出して山に登るということは、その車の通り道に住んでいる人しかそこまで来ることができないわけだ。
もちろん交通機関を使って近くの駅まで来てからその人を拾っていく手もあるが、運が悪いことに、ウチの集団のメンバーの住んでいる場所と俺の地元の町とでは非常に交通アクセスが悪いのである。
遠回りをすれば不可能ではなかったが、運転手は免許取りたてのアナカリスさん、いきなりの長距離運転はむちゃだという話になった。
そこでアナカリスさんに俺の家まで迎えに来てもらって、そこから通り道に住むKさんを拾って地元の車で登れる小さな山に行くことにした。
それから、現地まで親の車で送ってきてもらうことのできたMさんも加わって、初めての移動運用を開始した。  もちろんみんなで無線機を持ち寄っての移動運用など初めてだったので、いろいろとトラブルが多発した。
アンテナを立てるためのポールは持ってきたが、それを固定するためのロープを忘れてしまって、近くの板切れを拾ってそれをハンマー代わりにしてポールを地面に打ち込んでアンテナを立てたり、バッテリーの数が少なくて苦労したりなど、いろいろあったが何とかそれでもたくさんの人と交信できた。
何よりも山の頂上まで車で行くことができなかったので、初めて友達と山登りをしたこと。目の見えない俺のことを邪魔にしないでいっしょに連れて行ってくれたことは、本当にうれしかったし、盲学校の友達と遊ぶのとは全く違った楽しさを知ることができた。
 そして、これを皮切りにして、栃木学生集団は定期的にみんなで集まって移動運用を行うようになった。
ちなみにその移動運用の周期は1月の新年移動、3月の卒業祝い移動、8月の夏休み移動、11月の何気なく移動など、みんなが比較的暇になる時期を選んで実施していた。
そのせいだろうか、今でも俺はこれらの季節がくると血が騒いでしまう。
パソコンサポートグループ「BLPC」のイベントが、比較的これに近い時期に行われるのは、これらの時期になると俺の血が騒いで何かやらずにはいられないからだと思っている。

3.70集団の恐るべき移動運用の実態


 さて、この移動運用であるが、回数を重ねるごとにますますやることがエスカレートしていった。
 最初は俺の家の地元のメンバーが近くの山に遊びに行く程度のものだった。当然持っていく無線機もUHFやVHF帯の無線機とそれらの小さなアンテナ、そして電源用のバッテリー程度のものだった。
しかし、前もって計画を立てて、親の休みの日にイベントを実行することで、参加できるメンバーも増えてきた。
それにしたがって、持ち込まれる無線機の台数も増え、アンテナの数も増加した。
しかも親の休みの日、つまり一般的な休日に電波の飛びのいい場所に無線機を持ち込むと、チャンネルが込んでいて、あいているチャンネルを見つけることすら難しくなってしまう。
そのため、なるべく朝早くから出かけていって、チャンネルを獲得しなければならなくなってしまう。
 上記のようなことから、朝4時に俺の家に集合しなければならないメンバーや、何とかして大型のガソリン発電機を持ち込まなければならないメンバー、そしてついには軽トラックで現地まで荷物を運ばなければならないメンバーまで現れる始末だ。
でも、そんな風に大変になればなるほど、楽しさも倍増していった。
 ちなみに朝4時に俺の家に集合し、帰り着くのはひどいときには夜中の1時ごろに成ったりもしたんだから、よくもまあこんなことをやったものだと思う。
こんな無謀なことができたのも、メンバーすべてが心をひとつにできたこと、そして、これらの計画に協力していただいた方々のおかげである。

語句解説


移動運用
山の上や川の近くなど、電波の飛びのいいところに無線機を持ち込んでたくさんの人と交信すること。

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