待ちに待ったコールサイン


 交流校でのデモンストレーションが終わったその日、家に帰った俺に、待ちに待っていたものが届いていた。
そう、それは関東電気通信管理局からの
「無線局免許状」だった。
 アマチュア無線の世界に入るのには、先に書いたように、日本無線協会が行う「無線技師国家試験」に合格して「無線従事者免許証」を取得しなければならない。実はこれだけでは無線の世界で電波を出して人と話すことができないのだ。この免許証のほかに、「無線局免許状」といわれる、無線機や使用できる周波数などが詳しくかかれているものを電気通信管理局に申請してそれが受理されてはじめて「無線局」として認められるというのが現在の電波法の規定になっている。しかし、TomGは、盲学校の無線クラブの会員になっているので、そのメンバーの一人として、今までは電波を出させてもらっていたのである。
そして、この免許状に、アマチュア無線を行う上で最も大切な「コールサイン」がかかれている。つまり、これを受け取ったその日から、TomGは正式にアマチュア無線の世界の仲間に入れてもらえたということになる。
 1994年10月25日、この日こそが、俺が正式にアマチュア無線の世界の仲間入りをした日だった。

 それからこの日は俺にとって楽しみにしていたことがもう一つ会った。
その日は友達のNさんと初めて会う約束をしていたのだった。もちろん俺は無線で知り合った友達と会うのはこれが初めてだったから、その日が来るのが楽しみで仕方がなかった。
 Nさんからは、
「TomG君が学校から帰ったらそっちに向かうから、帰ったらメインで呼んで」
といわれていた。そこで世紀の一瞬、初めて自分のコールサインを使ってNさんを呼び出してみた。
すると、Nさんは俺の声と電波の強さで俺が呼んだことが分かったらしく、
「7M3XXX、こちら7L3XXX、TomGさんですね、開局おめでとうございます」
と応答してくれた。
 家にきたNさんは、俺に交付された免許状を読んでくれ、もう一度
「開局おめでとう」と言ってくれた。
その日の夜は、コールサインをもらったうれしさから、ほとんど徹夜で仲間と語り明かした。
 こうして俺は、めでたくアマチュア無線の世界に仲間入りできた。

補足


 ここでコールサインというものが、アマチュア無線局にとってどれだけ大切なものであるかに着いて、簡単に説明しておくことにしよう。
 アマチュア無線では、自分がマイクを握ったときと、相手にマイクを返すとき(基本的には自分がマイクを離すとき)に、電気通信管理局から割り当てられたコールサインを言うことになっている。正式には、10分ごとに自分のコールサインを言えばいいのだが、初めてつながった人や、知り合って間もない人と話すときは、上記の様に、しょっちゅうコールサインを言わなければならない。
だからコールサインはアマチュア無線でのその人の「名前」と言っても過言ではないぐらいに大切なものになる。
事実、無線仲間というのは不思議なもので、無線の上ではもちろんのこと、直接会って話をしたり遊びに行ったりするときでも、コールサインの後ろ3文字を名前の様に使ってお互いを呼ぶことになる。たとえば下の様になる。なお、下の例は、7L4ABCと7L4DEFの会話の例である。

7L4DEF:「ABC、おまえってさあ、今日の午後って暇か?」 7L4ABC:「えっ、今日の午後はだめだけど、明日ならいいよ。DEFは明日暇?」」
ざっとこんな感じになる。  コールサインが大切な理由はそれだけではない。
実はコールサインというのは1・2・3・4、のような連続した番号のようなものになっているから、それを聞くことで、その人がいつ開局[1]したのか分かる。そして、アマチュア無線の世界では、コールサインの古い人ほどその地位が高いのである。

語句解説


[1]開局
アマチュア無線用語では、無線局免許状」を公布されて、正式に無線を始めること。
無線局
無線機とそれを操作するものの相対をいう。アマチュア無線の世界では「無線をやっている人」のことを指してこのように言う。

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