来週7時に待ってます


 コールサインが届いた次の日、俺はいつもの様に友達と夜遅くまで話、そろそろ次の日の学校のことも考えて、寝ようと思って何気なくダイヤルをメインに戻して電源を切ろうとした。
 するとそのとき、非常に弱い電波ではあったが、はっきりした声で、 「CQ CQ CQ、こちらは7M3XXXです。どなたかお聞きの方いらっしゃいましたらQSOのほどよろしくお願いいたします。受信します」
と入ってきた。コール先の周波数を指定しないでメインチャンネルでCQを出していることや、そのコールサインの新しさから、無線を始めたばかりの人であることは明確だった。しかもその人は、声からしてかなり若そうだった。
俺は無線をはじめて実質1ヶ月以上の月日がたっていたので、学生が珍しいこと、そして学生を発見したらすぐに捕まえることが習慣になっていた。しかもこの人も、コールサインから察するに、俺と同じく昨日開局したばかり=どこの学生集団にも所属していないことが瞬間的にわかったのだった。
 そこですぐに俺はマイクを握って、
「7M3XXXこちらは、7M3XXXです。周波数を捜してきます。そのままお待ちください。」
と話し掛けた。するとちゃんとこちらの電波は届いたらしく、
「了解」の一言が返ってきた。
そこで早速周波数を捜し、そこに彼を誘導した。
彼はOさんという人で、俺が今現在通っている大学のある市の人だった。
そして、ハンディー無線機とそれにつける純正より少し長いアンテナという貧弱な設備にもかかわらず、その電波は俺の住むN町へと飛んできていたのだ。
Oさんは昨日開局してから必死にその小さなアンテナで、何度も何度もCQを出していたのだ。そして、それだけ何度もトライし続けて、やっと俺とつながったという。
そのときのOさんは、本当にうれしそうだった。
「昨日はもしかしたら誰か聞いていてくれるかなあと思ってCQ出してたんですけど、幾らやっても応答がないのでかなりがっかりしてたとこでした。 こんな短いアンテナなんで、誰も聞いてないんじゃないかとあきらめかけてたときに、TomGさんと初めてつながって、本当にうれしいです。」
 そしていろいろ話を聞いてみると、Oさんは高校1年生だった。
 Oさんはとても明るくて優しそうな人だったので、俺はすぐに自分の目が見えないことを打ち明けた。するとやっぱりOさんは、最初はびっくりしていたようだったが、すぐに交信を終わらせたりなどはせず、
「まあ、無線では目が見えなくても関係ないですからね。そんなことは気にしないでこれからもよろしくお願いします。」と明るく答えてくれた。
 それから約30分ほど楽しく話していた俺は、母ちゃんの怒鳴り声でわれに帰った。そう、早く寝ないと明日学校に間に合わなくなってしまう。
でも、Oさんとの交信はとても楽しく、これで終わりにしてしまうのはもったいなかった。それに、Oさんもそのアンテナでつながる人が他にいないんじゃないかと思ってとてもがっかりしていた。
そこで、来週の土曜日にまた話をする約束をして、その日は泣く泣く電源を切ったのだった。

 さて、待ちに待った次の週の土曜日、俺がメインに張り付いていると、Oさんのほうから7時5分前に俺を呼び出してくれた。そして、
「こんなに土曜日が楽しみだったことはないよ。TomG君とまたつながってよかった。」
と言ってくれた。
 そのときのうれしさは、今でもはっきり覚えている。今まで俺は、目の見える人と接していても、「自分は迷惑ばかりかけていて申し訳ない」とか、「自分は人にしてもらうことばっかりで、何の約にも立っていないんだ」などと悲観的なことばかりを考えてしまっていた。
もちろんこれまで友達になったNさんもKさんも俺のことを迷惑だなんて考えていなかったと、今になって考えてみればはっきりと分かる。
でも、このときOさんは、「迷惑なんかじゃないよ」とか、「してもらってばかりなんてとんでもない」といった類の言葉ではなく、はっきりと
「TomG君と話すのが楽しみで毎日この日が来るのを待っていた」といってくれたのだ。
こうして俺は、目が見えない俺であっても、普通の人と対等な友達付き合いができるという自信を、Oさんからもらったのだった。

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