「最近俺の住んでるS市で開局した学生の局がいるんだけど、その人ハンディー機だけしか持っていなくて、アンテナも小さいからまだTomG君も知らないかな?」
「はい、初めて聞いたんですけど、その人って何年生なんですか?」
「高校3年生って言ってたな。でもね、その人、かなり変な話しかしないんだよな。S市出身の画家の話とか、めちゃくちゃマニアックなアニメの話とかね。」
「でも、一度は話してみたいですね、コールサイン何って言うんですか?」
「確か、7N3XXXだったと思うんだけど・・・」
「よし、こうなったら俺今からメイン行って呼んでみますよ」
そんなわけで俺がメインで初めての人にもかかわらず突然呼び出しを入れると、少々ハム音混じりの声で、
「7M3XXX こちら 7N3XXXです。」
と返事があった。ということで早速
「3.70、433.70にQSY願います」
と知らない人にもかかわらず俺たち無法者の仲間に呼び入れてしまったのだった。
彼は本当に数日前に開局したばかりの高校3年生で、アニメの好きなとても明るい人だった。ちなみにあえてここで書いてしまうけど、使用している機器は八重洲無線のFT729、アンテナは付属アンテナ、安定化電源はアルインコの3Aのものを使っていた。
しかも電源の接続の関係だろうか、彼の変調にはハム音が混じっていた。でも、そんな貧弱な設備だったけど、彼の家の場所がよかったため、メンバーとの交信に支障はなかった。
それから彼には、花子(仮名)という妹がいた。しかも彼が無線をやっていると、
「お兄ちゃんの友達ですか?こんにちは」
とか割り込んで俺たちに話し掛けてくるという、とても楽しい兄弟だった。
そんなわけで彼(以下Yさんとします)は、すっかり俺たちと仲良くなり、その日から毎日のように俺たちと話すようになったのだった。
さて、その日から数日が経った夜、いつものように俺たちがたむろして話していると、Yさんのこえでブレークが入った。
もちろん俺はいつものように、
「Yさんこんばんはです。」
と返したのだったが、
「Yさんて誰ですか?」
とのお返事・・・これはいったい何なんだろう・・・。
「えっ、Yさんでしょう?なにふざけてんの?」
「いいえ、私本当にYさんって人じゃありません。今回はじめてブレークさせていただきました。S市のアナカリス(もちろんそのときは本名です)と申します。」
そんな感じでYさんはいつまでたってもふざけるのをやめなかった。それじゃあこっちもおふざけに乗ってやるかということで、Oさんが、
「初めてということですので、それではコール交換のほどよろしくお願いします。こちらは・・・」
とコール交換を始めた。
でも、さすがYさんも無線の世界に入ったばかりとはいえ、しっかりと自分の架空のコールサインと名前を用意していたように感じた。しかし、ここが面白いところで、彼の変調にはいつものようにハム音が混じっており、自分の無線機も八重洲無線のFT729、安定化電源もアルインコの3Aのものを紹介していた。しかも彼の変調の後ろからは、
「お兄ちゃん・・・」
かわいい妹の声まで混じっているではないか!!
そこで妹の名前を聞いてみると、
「花子です」
おいおい、これはYさんそのものではないか・・・
しかし、その声、俺の耳には何か違う人の声に聞こえる。しかも彼の架空と思われるコールサイン、今発行されている最新のコールサインを的確に利用しているではないか・・・。それに、彼は新しいアンテナとマイクを使っていることも話していた。
そこまで話してみて俺とOさんは気が付いたのだ。
そう、この人はYさんではない。変調はYさんそのものだけど、そっくりさんなだけで、ちゃんと免許を持ってコールサインを発行されているアナカリスさんという、全くの別人だったのだ。
そこで、俺たちは誤解してしまったことを謝って、そのアナカリスさんにも仲間に入ってもらうことにしたのだった。
ちなみにこのアナカリスさんとYさんが話しているのを聞いていると、かなり面白い。だって同じ声の同じ電波状態の人が、同じはなし方で話しているんだから。