ただいまって帰りたかったの


 友達と一緒に移動運用にいったり、初めてハムフェアにいったりと、その年の夏休みは本当にいろいろなことがあった。たぶんそれまでの夏休みの中で、一番楽しい夏休みだったと思う。
 でも、そんな楽しいことばかりあったわけではなく、つらいこともあった。
 6月頃に仲間に加わったお姉さんのおかげで、3.70集団はお姉さんをほしがる他の集団からの総攻撃を受けていた。
毎晩繰り返される電波妨害(妨害を受けると自分と話す交信相手の声が全く聞こえなくなってしまう)、アポなしの移動運用先への乱入、そしてメンバーに対しての恫喝など、日に日にそれはエスカレートしていくばかりであった。
俺は悩みに悩んだ。このままいくと3.70学生集団そのものが、○○ハムクラブのおやじの言っていた通り、つぶされてしまう可能性もあったし、電波妨害が原因で遠く離れたメンバーとの交信ができなくなってしまっていた。
 考えに考えた末、俺もどうしようもなくなって、そのお姉さんをうちの集団から排除することを決定し、お姉さんにマイクを回さないように(しゃべらせないように)メンバー全員に極秘で話を通しておいた。
そうすれば、お姉さんもうちの集団にいるのがつらくなって、○○ハムクラブの会話に参加するようになるだろう。そうすればこちらへの攻撃もなくなるだろう。そう思ってのことだった。
しかし、俺の思ったようにはならなかった。お姉さんはいくらマイクが回っていかなくても、毎晩うちの集団の使うチャンネルに出てくるのだった。

 そんなある日のことだった、ハムフェアで買ったばかりの新しい無線機を前に、俺が短波帯でCQを出していたとき、突然俺の家の電話が鳴った。
電話にでてみると、相手は涙声になったお姉さんだった。
「TomG君、どうして最近みんなあたしにマイク回してくれないの?」
「…・・………」
「どうして・・・」
「たぶんそれは偶然でしょう」
そうとしか答えられなかった。
「TomG君、あたしみんなと一緒にいたい、仲間外れにしてるの?
学生じゃないから?」
「………………」
「確かにあたしは学生じゃない、いつも仕事してるよ。でも、みんなと話すの楽しいから、みんなが好きだからいつも出てきてたんだ。」
「でも、お姉さん、ごめん。このままじゃ70(ななまる)つぶされちゃう!俺もどうしようもなかったんだよ。ごめん。だから・・・」
「あたしね、70のみんなと話して、無線ってCQだけじゃないって教えてもらったの。ラグチューって楽しいんだよって教えてくれたのみんなだった。だからあたし、無線の中でもただいまって帰れる場所がほしいの。今まではどっかのチャンネルでCQ出して、ちょっと疲れたなって思ったときとか、○○のおじさん達に捕まって、好きでもない話につきあわされたって、70にあわせてただいまって言えば、みんなお帰りって言ってくれたのに、」

出会ってからこれまで、短い時間だったけど毎日毎日俺たちと一緒に遊んだお姉さん、時間さえあれば無線のスイッチを入れて話してくれたお姉さん、いつも元気で明るいその声で俺たちの集団に華やかな雰囲気を作ってくれていた。その一言一言は、俺の心に鋭い刃のように突き刺さった。
 それで俺は決心した。どんなに70が攻撃を受けても、お姉さんを仲間外れにしたりなんかしないことを。
そしてその夜、メンバーでたくさん話し合って、何とか解決策を見つけた。
それは、お姉さんに毎日出てくるのはやめてもらって、「ただいま」って帰りたくなったらこっちに出てきてもらうと言うことだった。
そして、お姉さんには他のハムクラブの人とも話してくれるようにお願いした。それからもう一つ、栃木学生集団を応援してくれている何人かのおじさんに、「妨害を受けたら助けてほしい」とお願いして、何とかこの問題は解決することができたのだった。

語句解説


ラグチュー
仲間がみんなで集まって話をすること。

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