受験という絶壁


 今まで毎日のように無線に出てきていた県南のT市に住むT君から連絡があったのは、中学3年の夏休みが終わってすぐのことだった。。
「僕そろそろ受験勉強に力入れないといけないから、これから無線には出られない。今日すぎたら高校決まるまでは出てこないので皆さんよろしくお願いします。」

 このとき盲学校に通っていた俺には、高校受験という者が世間の中学生をどれだけ騒がせる者であるか、話には聞いていた者の、実際目の前にある現実は、自分は今言っている盲学校の高等部普通科を受験するしかないと言う者だった。
もちろんこんな状況なんだから、この高等部普通科を受験して落ちてしまったという話など、鍼灸按摩マッサージの資格試験が国家試験になってからは全く聞いていなかった。
 そんな状況の中での彼のお休み宣言は、俺にとって衝撃的な者だった。
もちろんこんなことが前の年になかったわけではないが、前の年が受験に当たっていたのは一人か二人程度の人で、その人が抜けてしまってもほかにもかなりのメンバーが残った。しかも実際受験体制に入ったのは一人だけで、もう一人の人は
「俺は受験勉強をしながらでも無線はできる。勉強の合間に出てくるからアクティビティーは下がると思うけど、やっぱり無線やってストレス解消しねえと勉強なんてできるか!!」
と宣言する強者だった。もちろん宣言通り、彼はセンター局不在の平日に一生懸命勉強して、土曜・日曜祝日は徹底的に遊んでいた。だから実際受験体制に入ったのは一人だけだったのである。
しかし、この年はセンター局の俺を含め、当時の主力メンバーとなっていた5人ほどが受験に当たっていた。
だから俺としてはこの先、メンバーが次々と受験に入ってしまうと、これからの栃木学生ハムクラブに大きな影響が出ると考えたのだった。
 それから1ヶ月、2ヶ月と経過するうちに、もう一人、また一人と受験体制に入る局が出てきた。
そんなわけで、中学3年で集団に残ったのは、高校受験に落ちるはずのない俺と、わざと自分のレベルよりも低い高校を受験したと宣言するH君のみになった。彼はこの年の5月に無線を始めたばかりの人で、まだまだ無線が一番楽しい絶頂期のまっただ中にいたので、受験で引っ込んでしまうような事にはならなかったのだと思う。
 そんなわけで実際にこの年受験体制に入ったのは3人で、新しいメンバーも増えたりしていたので、俺の思ったように栃木学生ハムクラブのアクティビティーが下がることはなかったのだった。
今思ってみればこの年は本当に運が良かったと思う。だってこの年に入ってきたメンバーはH君を含めて4人、そのうち二人は中学1年生の比較的勉強に追い立てられずに住む面々だった。
それだけではない。もう一人の中学2年の人のご両親が非常に協力的な人で、移動運用の時に車を出してくれたりしたのだ。
だから俺は、受験生だというのにもかかわらず、無線友達と平気で遊び歩いて過ごしてしまった。

 そして栃木県立高校の合格発表のあった日の夜、今までお休み宣言をしていたメンバーの一人が集団に復帰した。
「おい、みんな、戻ってきたぞ!!これからは高校も決まったから、勉強なんてくそくらいだぜ!!また移動運用やろうぜ!」 半年ぶりに聞いた彼の声が俺にはたまらなく嬉しかった。
そしてその声は一つのことを達成できた満足感に満ちあふれていたし、何よりもその半年間の間、無線を我慢していたことが伝わってきた。
後で彼に聞いてみると、勉強中時々無線に出たくなって、何度か聞いては異端だけど、ここで勉強を止めてしまったら自分に負けると思ってがんばったと言っていた。
 しかし、嬉しいことばかりではなかった。この受験という絶壁を超えたことで、無線を忘れてしまったメンバーが一人いたことは事実だ。
でも、ともかく受験対栃木学生ハムクラブの勝負は、圧倒的に俺たちが勝利した。

解説


 俺の通っていた盲学校の高等部には、普通科と按摩マッサージを学ぶ保健理療科の二つの学科があり、それを卒業後の過程として、鍼灸按摩マッサージの両方を学ぶ専門課程があった。。
つまり、按摩マッサージだけを学びたいのならば、中学部を卒業してからこの保健理療科に進学すれば、高卒になるし、資格も取ることができた。世間で言うところの工業高校とか農業高校といった漢字の職業校と呼ばれる者と同じ位置づけになるのがこの保健理療科な訳である。
これに対して、普通科というのは世間で言うところの進学校だ。
だから鍼灸按摩マッサージ師の資格試験が国家試験になるまでは、進学校に当たる普通科の方が難しかった。
しかし、資格試験が国家試験になり、取得が困難になったとたんにこの状況は一変してしまった。
国家試験を通るためにはある程度の学力が必要になったから、今度は保健理療科の入試の方が難しくなってしまったのだ。
だから盲学校の普通科に落ちると言うことは、ほとんどないと言っても過言ではないのが現実になる。

語句解説


アクティビティー
無線用語では無線に出てくる頻度のことを指す。集団に対して使う場合には、以下にたくさんの人がその集団で以下に多くの時間活動しているかと言うことを指す言葉として使われる。

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