携帯電話と無線の共存


 俺が高校1年の後半、つまり1997年の10月頃からであろうか?高校生の中に今までになかった画期的な変化が起こり始めていた。
それはほかでもない、急速な携帯電話やPHSの普及の始まりである。
 携帯電話の無差別な使用により、電車やバスの中が騒がしくなったりし始め、これが社会問題としてマスコミに取り上げられるようになったのも確かこのころではなかったかと記憶している。

 もちろん高校生を中心に構成されている、俺たち栃木学生集団の中にも、携帯電話は着実に普及し始めていた。
俺はこの現象が起こり始めたときから、一つの大きな不安を感じていた。
それは、「みんなが携帯電話を持ち始めると、無線に出てこなくなってしまうのではないか」
というものだった。しかし、俺の予想は全く逆の方向に外れることとなった。

 一見すると、携帯電話とアマチュア無線というのは、「人が話をするための道具」という、全く同じ性格のものに見える。
しかし、両者には決定的な違いがいくつか存在した。 まず一つ目は、携帯電話は高額な通話料がかかるのに対し、アマチュア無線は「無料で会話が楽しめる」という点である。
これは、経済的に不利な学生にとっては、かなり大きなウエイトを占める。
二つ目は、一度に会話に参加できる人数の違いだ。携帯電話は標準のサービスでは、1対1での通話しかできない。まあオプションサービスを利用すれば、3社通話も可能なのであろうが、やはりこれにも料金がかかるので学生が利用するには向いていない。
3つ目の大きな違いは、不特定多数の人に対しての呼びかけができるかできないかということだ。これは携帯電話ではどうやっても不可能だ。
しかし、携帯電話にはこれらの欠点を補ってあまりある、強力な利点がある。それは、 「電源を入れていてもよけいなノイズが入らないことと、自分以外の呼び出しが聞こえない」
「人に会話を聞かれる心配がない」
というものである。
 まず、アマチュア無線には、メインチャンネルと呼ばれる呼び出し専用の周波数が用意されているが、ここはひっきりなしにいろいろな人がそれぞれ自分の目的とする相手のコールサインをしゃべるので、つけっぱなしにしているとうるさくてたまらない。
しかし、携帯電話は自分にかかってきた電話の音だけしか聞こえてこない。

 携帯電話の普及が進むにつれて、衰退していくと思われがちだった学生集団は、これら二つを上手に組み合わせて利用し始めたのである。
今では社会問題になっている「ワン切り」だが、無線の仲間達はこれを多く利用した。ワン切りであれば料金はかからないから、無線仲間からワン切りが入ったら、すぐに無線機のスイッチを入れ、3.70をつけるという暗黙のルールができあがった。
これならば料金は全くかからないし、うるさくてしょうがないメインチャンネルをずっとつけっぱなしにしておく必要が無い。
 それに、無線で何か話をしていて、人の電話番号を知らせなければならないときや、ちょっと人には聞かれたくない話をしなければならないときなどには、夜中であっても携帯であれば家の人には迷惑がかからずとても便利に利用できた。
また、他の人には聞かれないのをいいことに、もし妨害電波を出すいたずらやろうが出現したときなどは、電話を使って異動先の周波数を伝えて、避難する方法を使うようになった。
もちろんこんな時のために、内の集団の中に、普通電話を含めた連絡網が自然と形成されていったことは言うまでもない。

 移動運用の時などは、ちょっと相手が遠くに離れてしまって、無線が通じないときなどに、携帯に電話を入れて連絡を取るようにした。
これならば無線が通じなくても確実に連絡を取ることができる。

 こんな風にして、俺たちは携帯電話と無線をうまく使い分けて利用していたので、むしろ携帯電話は学生集団の勢力強化に役立ったと言っても過言ではなかったのである。


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