交流校でのデモンストレーション


 アマチュア無線を始めてから約1ヶ月が経過したある音楽の時間のことだった。いきなり、音楽担当のN先生が、俺にこんな話を持ちかけてきた。

「TomG、おまえ今度の交流校[1]の文化祭で、ウチの学校の出し物があるよな。そのときおまえ、視覚障害者の趣味の一つとして、無線のデモンストレーションでもやらないか?それで、そのときに全く知らない人と呼び出して、気軽に話すんだ。きっと向こうの生徒も驚くぞ!!」

 この話を聞いたとき、俺は一瞬戸惑ってしまった。
というのも、無線のデモンストレーションをやらせてもらうのはもちろんうれしいことだが、無線機をどうするかということである。
デモンストレーションをやるのは相手先の学校の体育館である。そうなってくると、使える無線機は、おのずとハンディー機(携帯無線機)になってしまう。幾らその当時の430MHz帯がにぎやかだといっても、ハンディー記の短いアンテナでは、幾らCQを出したところで応答がないのは分かりきった話なのだ。
しかも、当時の俺には、交流校の近くに無線友達はいなかったのである。
でも、こんなチャンスはまたとない!!そこで、そのときは勢いで、 「はい、喜んでやらせていただきます」 と答えてしまった。

 さて、その週の土曜日、家に帰った俺は、真っ先に無線機の電源を入れて、NさんとKさんを呼び出した。そう、この悩みをこの二人に相談すれば、何とかなるような気がしたのであった。
すると、早速Nさんの方からすぐに応答があった。
そして、上のことを相談すると、
「その先生は無線のことが全然分かっていないんだね。そんなことだからTomG君にこんな無謀なことを頼むんじゃないかな?実際固定[2]でCQ出したって、空振る(からぶる)[3]ことなんてよくある話なのに、ハンディー機であの山の中の学校からやったってねえ・・・。」
「そうですよね、俺も困っちゃって・・・。」 「ようし、こうなったら俺の友達のOさんに話してやるよ。OさんはK市の人だから、その学校までだったら余裕でハンディー機で交信できると思うよ。ちょっとこのチャンネルで待ってて、メインに行って呼んでみるから」
ああ、やっぱりさすがNさん、すぐに解決法を見付けてくれた。
それからNさんは友達Oさんをチャンネルに連れてきてくれ、事情もちゃんと話してくれた。もちろんOさんもいい人だったので、

「じゃあ、君はその時間にメインで必ずCQを出して、そしたら俺はその時間受信感度を最高に上げて、その学校のほうにアンテナを向けて聞いているから。俺の家からあの学校までだったら、たいした距離じゃないから必ずつながるから。それで君からのCQ聞こえたらすぐに応答するから安心してやるんだよ。これは無線を他の中学生に知ってもらういい機会になるからね。」

と勇気付けてくれた。
 次の日、学校に行くと、その先生と打ち合わせをして、無線を紹介する原稿を作成し、本番の前の日には会社帰りのOさんと学校から無線で打ち合わせをすることができた(Oさんは車に無線機を積んでいた)。
 さて、いよいよ本番の日、俺が会場にハンディー記を持ち込んで、用意していた原稿を読み、早速空いている周波数を捜してから、メインチャンネルで、
「CQ CQ CQ、こちらは・・・」 と呼びかけてみると、打ち合わせどおりOさんは、俺と初めて話をしたときの様に上手に演技をしてくれた。そのおかげで会場の人々からは、
「おお、すげえ!!」とか、「楽しそうだなあ」といった感想を聞くことができた。
 そんなわけで俺のはじめての無線デモンストレーションは、NさんとOさんのおかげで、大成功のうちに終えることができたのだった。

語句解説


[1]交流校
盲学校生徒と一般の学生との交流のために、学校同士の話し合いによって提携されている学校のこと。お互いの学校行事に参加したり、盲学校の生徒が、相手の学校の授業を受けに行くこともある。
[2]固定
無線用語では、ハンディー記を持ちながら外で話している人や、車につんである無線機で話している人に対して、自分の家から固定されたアンテナ(屋根の上に立てたアンテナやベランダに固定したアンテナなど)を使って話すひとのことを「固定局」という。ちなみに車に積んだ無線機で交信している場合には「モービル局」と言う。
[3]空振り
CQを出しても誰からも応答がないこと。

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