大学との交渉


 不採用通知に苦しみながらひたすらエントリー活動を続ける俺であったが、2月も後半にさしかかった頃、ついに企業の採用担当者の方と直接お会いして話を聞いて頂けるチャンスが訪れた。
いつも利用している障害者のための就職総合Webサイトのトップページに、「障害者のための就職フォーラム」というイベントを行うという情報が掲載されていた。
そしてその日に企業の方から頂いたメールの一つにも、

「一度面談の機会を作れればと考えております。
弊社は(株)○○様主催の『障害者のための就職フォーラム』に参画をいたしますので、よろしければ○月○日に弊社ブースへお越しください」

という内容のものがあった。
もちろん企業の方と直接お会いして、話を聞いて頂くことが、自分の障害について理解して頂くためのもっとも近道と考えていた俺は、このイベントに参加したいと考えた。
 しかしこれには大きな問題があった。
このイベントは東京の某ビルの4階で行われたのだが、俺はその建物に行ったことが全く無いばかりか、就職フォーラムという者も全く初めての経験だったので、一人で行くのはかなり困難なことだった。
そこで去年このフォーラムに参加した先輩に聞いてみると、ここで就職が決まった人は多く、大学側もこのフォーラムを重要視しているから、引率が着くのではないかとのことだった。
 ところが、就職主任の先生や、俺の就職担当の先生にこのことをお話しして引率のお願いをすると、
就職主任の先生からは、
「就職活動をする上でのガイドヘルプは私たちの仕事ではありません」
俺の就職担当の先生からは、
「私は正直言って東京まで引率するのは面倒くさいんですよね。」
という、信じられない答えが返ってきた。
はっきり言ってこのときはかなりびっくりした。
前年度までは数名の先生が引率して向かっていた就職フォーラムなのに、これはいったいどういうことなのだろう。
 これが一般の大学での話ならば、先生方のおっしゃられていることは正論だろう。しかしここの短期大学は、視覚障害者の自立と就労に直結した大学ではなかったのか?
その大学の助教授ともあろう先生方がこんなことをおっしゃるなんて、はっきり言って信じられないことだった。
うちの学科のホームページの案内にも、

「情報処理学科では,豊富な企業情報をもとに2年次の後半から就職ガイダンス・就職セミナー・模擬面接・社会人マナー研修・企業見学といったきめ細やかな就職指導を行います。」

と書いてあるではないか!
これはいったいどうなっているのだろうか?
 俺がこの大学を選んだのは、情報処理の技術を一生懸命学習して、コンピュータ関連の仕事に就くことだったのに。その就職の支援も全くしてもらえないなんて・・・。
「俺はこれからどうしたらいいんだろう」
これがそのときの正直な気持ちだった。
むろん、俺は視覚障害者が就職活動をするときに、学校側が引率をすることを「当たり前だ」とは思っていない。だが、視覚障害者の就労に直結したこの大学だからこそ、このようなことはあってもいいと考えていたし、だからこそ現実に今までこのようなことが行われてきたのではないかと思う。
それを今年に限ってなぜ行わないと言うのだろうか?このことは到底納得のできる話ではなかった。
 そこで俺は、2日間あるフォーラムの最初の日だけでも何とか引率して頂けるように、毎日大学と交渉を続けたが、先生方は同じ内容を繰り返しおっしゃるだけで、全く話にならなかった。
 こんなことをしていても何も始まらないばかりか、せっかくのいいチャンスを逃してしまうと感じた俺は、こうなったら大学なんか頼りにしないで、意地でも何とかしてやると決心した。
 そして、東京での視覚障害者の就職活動を支援してくださるボランティア団体を探しているとき、偶然大学1年の夏にオーストラリア旅行でお世話になった先生が、「全国視覚障害者外出支援連絡会(通称JBOS)」の会長をしていらっしゃると聞いて、早速お電話で今回のことを相談してみることにした。
すると先生は、
「TomG君が就職活動するんやったら、先生できるだけ支援してやるわ。その代わりあなたも精一杯やるんやで。」
と励ましてくださり、当日のガイドヘルパーを派遣してくださると約束してくれた。
大学から見放されたも同然だった俺にとって、この言葉は本当に嬉しいものだった。
そしてこの後も、JBOSの方々には大変お世話になった。
この出会いがなかったら、今頃まだ俺は就職が決まっていなかったかもしれない。
代表の窯元先生を始め、JBOSの皆様本当にありがとうございました。


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