初めての就職フォーラム


 春休みが終わってすぐの4月11日、俺は初めての就職フォーラムに参加するために東京に出かけた。
前日に、先生に手伝ってもらって、履歴書と自己PR分、そして身体障害者手帳のコピーを何枚か用意して、それをすべて3枚ずつセットにしてクリップで留め、クリアケースに入れて準備した。
就職フォーラムはおろか、企業の方々にお会いして話をしたことがなかった俺は、前の日からかなり緊張していた。
特に自信がなかったのはスーツの着こなし方だ。
入学式の時や、就職模擬面接の時にはスーツを着ていったが、そのときはどうせ学校でやる行事なので、スーツの着こなし方が多少変でもたいしたことにはならなかったが、今回は就職がかかっているだけに、かなり神経を使ってしまった。
 もちろん時間に遅れるなんて前代未聞だと思い、いつもよりも少し余裕を持って早めの高速バスに乗っていったのだが、こういうときに限ってバスというのは意地悪な者で、予定時刻よりもかなり早くつきすぎてしまった。
そんなわけでひたすら東京駅の日本橋口のバス乗り場でボランティアの方々が来るまで待っていることになった。こういう緊張しているときに、一人で何もすることなく待っているというのが大嫌いな俺にとって、この時間はかなりきつい者だった。
 そうこうしているうちに、今回の担当のガイドヘルパーの方が来てくれた。
この方は、普段は自営で人材派遣の仕事をしていらっしゃる方で、面接の仕方やスーツの着こなし方の注意まで、歩きながらいろいろと教えてくださり、俺の服装のちょっとおかしいところも教えてくださったので、かなり安心した。
それから近くのコンビニでサンドイッチを買ってからベンチに座って昼食をすませて会場に向かった。
 会場に着くとすでにたくさんの人が集まっていた。車いすの方、俺と同じ視覚障害者の方、そして聴覚障害者の方など、様々な障害を持った方が、真剣な表情で面接の本を読んだり、仲間と話し合ったりしていた。
受付が始まり、会場にはいると、今回参加している企業のパンフレットが置いてある場所があり、みんなそこに行って何処の企業を受けるかを考えているらしかったので、俺も早速ガイドの方に手伝って頂いて、ブースのレイアウト図を見ながら、今回面談をしてくださるとメールをいただいた企業の位置を調べた後、募集職種が「SE」とか「ネットワークエンジニア」などとなっているところに印を付けていった。
そしてそれが終わると、今回メールをいただいていた企業の中で、もっとも話を聞いて頂けそうな企業のブースの一番近くまで言って、面談開始の合図があるのを今か今かと待っていた。
 そんなわけで面談開始と同時に、某運送会社のシステム開発を行っている企業の担当の方に話を聞いて頂くことができた。
先輩からは、
「TomG君、企業の人って目が見えないことを話しただけですぐに話を切ろうとするから、気合い入れてがんばってきてね」
と言われていたので、そのことを話したときには結構どきどきしたが、その企業の方は全くそんなことはなく、かなり真剣に俺の話を聞いてくださった。そして、信じられないことに、
「当社に一度いらして頂いて、面接を行いたいと思いますので、日程が決まりましたらメールでご連絡差し上げます。」
とおっしゃったのだ。
もしかするとこれは脈があるかもしれないと思った俺は、今までの不安も緊張も何処へやら吹っ飛んでしまった。
それから10社近く面接を受けたのだが、1社をのぞいて担当者の方々はみんな、俺の話をそこそこ真剣に聞いてくださった。
企業の方からは主に、
「通勤はどうしますか」とか、「ご自宅は筑波とのことですが、当社は東京ですがどのようにしますか」とか、「パソコンはどのように使うのですか」などのような質問があった。
しかし幸いなことに、俺の困ってしまうような意地悪な質問をする方はほとんどいなかったので、この日の面接はかなり好調だった。
前に聞いていた話によると、いくらがんばっても5〜6社が限界だと言われていたので、真剣にたくさん回っているうちに、用意した履歴書が無くなってしまい、会場のコピー機で次の日の分も併せてコピーしてから、同じ全盲の女性の方に声をかけて、就職活動の情報や、どんな企業を受けたかなど、いろいろと情報交換をして、その日は終わったのだった。

 この就職フォーラムは二日間にわたって行われたので、次の日ももちろん俺は参加した。
この日は前日に比べて出店している企業が少なかったので、待ち時間は少し長めだったが、昨日の面接で少し自信がついたのか、この日もかなり好調だった。
もちろん昨日と同じように俺は、ねらいの企業のブースの前に行って、面談開始まで待っていた。
その企業は、インターネットのバックボーン回線を提供している外資系の「会社で、日本ではどちらかというとあまり有名な企業ではなかった。その性だろうか、俺が真っ先にここに座ったことに、担当者の方はかなりびっくりしたようだったが、それでも嬉しそうに俺の話を聞いてくださった。
そして、後日連絡すると言うことで話は終わった。
 それからこの日、俺はとんでもないミスをやらかしてしまった。それは、大学卒の採用しかない企業に、全く知らずに乗り込んでしまったと言うことだった。
俺が履歴書を出して机の上に置くと、担当者の方に、あからさまに不機嫌な表情で、
「うちでは大学卒しか採用してないんだよねぇ」
とか言われてしまってかなり恥ずかしい思いをした。
 そんなことはあったが、この日も8社ほど面談を受けることができた。

 子の二日間のフォーラムで、企業の方々がどんな人材を求めているのかと言ったことや、面接の時にはどのようなことを質問し、そしてチェックしているのかなど、今までには知ることのできなかったことを勉強することができたと思う。
そして、2回目の就職フォーラムで、このときに学習したことがかなりの力になったのであった。


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