失望


 就職フォーラムが終わって1週間たっても、俺のポストにはいるのは、いつものように不採用通知ばかりだった。
このフォーラムで面接して頂いた企業からも、そのときはあんなに好印象だったにもかかわらず、容赦なく不採用通知は送られてきた。
 しかし、1日目に面接に来てくださいと言ってくださった企業からは、不採用通知はおろか、何の連絡もなかったのだった。二日間併せて20社近い企業を回ってきて、そのほとんどの担当者の方が、予想よりも真剣に俺の話を聞いてくれただけに、これらの企業に対する俺の期待は、かなり大きなものだった。
もしこのフォーラムで、最初に考えていたとおり、何処の企業の担当者も、目が見えないからと言って正直に断ってくれればこのときのショックも多少は小さかったのだろうと思う。
 もちろんフォーラムから帰ってからも、就職サイトを通じて、どんどん新しい企業にエントリーしたりしていた。
その内の1社から、履歴書と卒業見込み証明書を送ってくださいという話も来たりしていた。履歴書を送ってくださいという話はよくあったが、卒業見込み証明書まで求めていると言うことは、この会社はもしかすると面接ぐらいはしてくれるだろうとも思ったが、結果はやはり書類を送ってから3日間で、不採用のメールが来るというものだった。
さすがにここまで結果が悪いと、俺は完全に失望してしまった。
そんなとき、多くの視覚障害者が情報交換をしているメーリングリストに、俺と同じように就職活動中の大学生からメールが流れた。
それは、俺が前々から興味を持っていたソフトの話をホームページにアップしたという話で、就職活動とはほとんど関係のないものだったが、偶然そのひとの日記を見た俺はかなり驚いた。
その人は一般事務職を希望して就職活動を行っているようだったが、フォーラムで企業の方とお会いしても、視覚障害者がパソコンを使えることはおろか、白杖を持って自力で通勤できることすら信じてもらえないという、とんでもない事実が書き記されていた。
少なくとも俺がお会いした企業の担当者の方は、言葉だけかもしれないが、視覚に障害があっても音声を使ってパソコンを利用できることや、通勤も問題なく行えることなどは、話を聞いて分かっていただけ、検討してくださるとおっしゃってはいただいたのに、これはあまりにもひどすぎる話だった。
 このページを見て俺は、苦労しているのは自分だけではないこと、そして、自分はまだあまりひどい目には遭っていない方だと言うことを感じた。そして、やっぱりもう少し気合いを入れてがんばってみようと思えるようになったのだった。

とんでもない失敗


 さて、ちょっと話は脱線するが、俺は上で書いた証明書を出してくださいという企業に送る書類を教務係に申請するとき、とんでもないミスを犯してしまった。
 その日は、授業が午前中で終わる日で、飯を食ってから卒検室に行ってメールをチェックしてみると、例の書類を送ってくださいという内容のメールが来ていた。
ちょうどいい具合にその日は、ほかの企業にも履歴書を送付しなければならず、5時間目に就職担当の先生に、履歴書の発送作業を手伝って頂く約束をしていた。
そこでできれば今日中にこの資料も送ってしまいたいと思ったので、教務課に行って卒業見込み証明書と成績証明書の申請をしようとすると、
「この申請書に、情報処理学科の主任の先生のはんこをもらってきてください」
と言われた。
そこで俺の頭の中に浮かんだのは、去年まで内の学科の主任をしていた教授のN氏の名前だった。しかもその時間、N氏は空き時間だと言うことを知っていた俺は、何も迷わず主任であると思ったN氏にはんこをもらってきてしまった。
教務課に向かう道すがら、クラスメイトのNが買い物に行くというので、ついでにコーヒーの豆を買ってきてくれと頼んだとき、
「何処行ってたの?」と聞かれたので「主任の部屋?」と答えると、
「ああ、M先生のところ?」という返事が返ってきた。そこで俺は大失敗に気がついたのだ。
そう、今年の4月から、内の学科の主任が替わっていたのだった。
そんなわけで教務課に行って事情を説明すると、思いっきり笑われてしまったあげく、
「まあ情報の先生ならいいですよ」
とあっさり許してもらえたのだった。


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