初めて受けた入社面接


 6月11日、俺は初めての面接試験を受けるため、東京の文京区にある医療機器を扱う企業に出かけた。
 初めての面接試験と言うことで、前の日からかなり緊張していて、なかなか眠れなかったのだが、目が覚めたのはかなり早い時間だった。
しかもこの時間というのは運が良いことに5時40分で、俺が高校に通学していたときに、いつも起きていた時間だったから、何となくこの会社とは脈がありそうな気分だった。
 この日も就職活動に出かけるのと同じように、絶対に時間に間に合う設定で出かけたのだが、思ったよりもバスが東京駅に到着するのが速かったため、ガイドヘルパーの方のいらっしゃるまで、30分程度東京駅で待つ羽目になってしまった。
 それからいくつか電車を乗り継いで、目的のビルについたのだが、かなり早くつきすぎてしまったため、1階のロビーでウーロン茶を飲みながら時間をつぶしていた。
すると、ガイドの方が、そのロビーにおもしろいものを発見した。それは喫煙者専用のテーブルで、テーブルの真ん中が灰皿のようになっていて、その下にファンがついており、そこでたばこを吸うと、煙がその中に吸い込まれていくため、近くにいても煙の被害に遭わずにすむという、アレルギー持ちの俺にとってはうれしいものだった。
 さて、時間が近づいてきたので、受付に行ってみると、これまた最近のシステムらしく、受付には人はおらず、タッチパネル式のコンピュータが設置されており、それを使って用事のある人を検索して電話をかけて呼び出すというシステムになっていた。
それにしても、このシステムがタッチパネルだというのは残念だ。視覚障害者である俺には、このシステムは使えないので、もし入社できたらどうしたらいいものかと迷ってしまったものだ。
 さて、いよいよ面接の時間になった。
面接は、フォーラムでお会いした人事部の方と、俺の希望しているIT部門の部長の二人の方で行われた。
この中では、まず、人事の方から会社の簡単な紹介をして頂いた後、自分の詳しい障害状況とか、この会社に入社したいと思った理由、そして、入社したらやってみたいと思う仕事について主に質問された後、通勤をどうするかなどの具体的な質問をされた。
俺は、自分の障害については、目が見えないので移動が不便なことや、パソコンを使うときには特殊なソフトが必要なことなどを話し、その後に
「最初の内はご迷惑をおかけすることも多いと思いますが、慣れてしまえば社内の移動も一人でできますし、通勤も高校時代に電車通学を経験していますので問題ありません。」
と説明した。
この会社に入社しようと思った動機については、
「私は視覚障害者であるが故に、生まれてからこれまで多くの不便を感じてきました。
その不便を解決するために、多くの人に援助して頂いたり、パソコンをはじめとする障害補償機器の助けを借りて生活してきました。
そこで今度は、医療機器を開発している御社に入社させて頂き、困っている人を助けることの出来る商品開発に、私の障害という個性を生かして少しでもお役に立てればと思い、御社を志望いたしました。」
のような感じの答え方をしたと思う。
 しかしこの面接の中で困ってしまったのは、やりたい仕事について、
「社内ネットワークの管理や、インターネットを利用した情報管理など、大学で学んできた技術を生かした仕事をさせて頂ければと思っております」
と答えたときに、IT部門の部長の方から、
「ネットワークと言われても内はそういう仕事少ないんだよねぇ」
とか言われてしまったときだ。これは予想外の事態だったので、かなりまいってしまったが、落ち着いて何とか、
「ネットワークと申しましたのは一番やってみたいと思う仕事の一つで、私はいろいろなことに挑戦して新しい知識や技術を学んだりすることが好きですので、コンピュータに関する仕事を中心にやらせて頂きたいと思っています」
と答えることで、その場は何とか乗り切った。
 そんな感じで初めての面接が終了して、ほっとしてガイドヘルパーの方を待っていると、先ほどの人事の方が部屋に入ってきて、
「私どもの人事総務部長が、TomGさんにお会いしたいとのことなのですが、お時間ありますでしょうか?」
と言うではないか!
これにはかなり驚いてしまったが、ふつういきなりこんな事にはならないので、喜んで面接して頂くことにした。
しかし、ガイドヘルパーの方がちょっと時間がないというので、何とか一人で帰ることにした。
 それから30分ほどして、その日2回目の面接は始まった。
 内容としてはだいたい同じ感じの質問をされたのだが、障害についての質問なさるときに、
「こんな事聞いても失礼にならないかな?」
と、何度も気遣ってくださり、本当に優しい部長さんのいらっしゃる会社だと思った。
それと同時に、今まで以上にこの会社に入社したいという気持ちが強まった。

 面接が終わって時計をみてみると、2時間半以上も経過していたのでびっくりしてしまった。お忙しい中こんなに丁寧に俺の話を聞いて頂いて、本当にうれしかった事を今でもはっきりと覚えている。


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