学校訪問


 6月17日の夕方、合同面接会から帰った俺に、予想もしなかった嬉しい知らせが飛び込んできた。
それは、先週の火曜日に面接試験を受験した会社から、 「今週の木曜日の午後に、学校を訪問して先生を交えて話を聞きたい」
という連絡があったという知らせだった。
先週の面接の後、このような話があるということは、もしかするとこの会社には縁があるのではないかと思い、俺の心の中は「やっとここまでできたんだ」という喜びでいっぱいになった。
それと同時に、この機会にどんな話をして、自分をアピールするかによって俺の運命は決まるような気がした。
 そこで次の日、就職担当の先生と、相手の方にどんな話をして、どんな風に自分をアピールできるかについて話し合いをした。
その結果、先生の方からは内の大学に関する説明と、俺についてのアピールをしてもらって、俺の方からは、視覚障害者がどのようにしてパソコンを使っているのかを、研究室でデモンストレーションすることにした。
それと、授業見学をする可能性もあると思ったので、同じ学年で違うコースの友達と打ち合わせをして、相手の方に紹介するために、拡大画面でプログラムを作っていてくれるようにお願いした。

 さて、いよいよ当日が来た。
俺は朝からこのことばかり考えていて、かなり緊張していた。
とりあえず飯を食った後いったん家に戻ってスーツに着替えて学校に行くと、エレベーターの前で偶然誰かに「TomG君、こんにちは」と声をかけられた。
俺は一瞬誰だか分からず、とりあえず「こんにちは」とだけ挨拶したのだが、その直後に相手の方から
「○○株式会社の○○です。」
と自己紹介されてびっくりした。なんと本当に偶然、相手の方を俺がご案内して待ち合わせ場所の会議室まで行くことになったのだ。
しかもそのとき、スーツの襟がおかしくなっていて、さりげなく後ろから直して頂いてしまって、かなり恥ずかしい思いをした。

 会議室に着くと、まずその担当者の方から、会社の概要や業績などについてお話して頂いた後、内の学科の就職部主任のK先生の方から内の大学のパンフレットを使って、どんな大学で、今まで先輩がどんな企業に就職しているかの話をして、内の大学の宣伝をした。
K先生は、そのついでに、障害者を雇用したときの補助制度の説明もしてくださった。
それから今度は、俺の就職担当の先生が、子の生徒は普段一人で暮らしていることや、学校にもちゃんと独力でこられること、パソコンも他の人よりもよく知っていて、いつも後輩が困っているときに積極的に指導していることなど、かなりいい感じにPRをしてくださった。
(本当はそんなに俺は優秀ではないです)
すると相手の方から、一人暮らしで困ったことについてや、もし採用になった場合の会社までの通勤方法について、改めて質問があった。
俺は、一人暮らしで困ることは、手書きの文字が読めないことと、全く初めてのところに行くときに道が分からないこと以外は何もないということと、通勤については会社の近くに引っ越しするつもりなのでこれも問題ないことを説明した。

 その後、今度は授業を見学することになり、打ち合わせをしておいた友達が授業をしている教室に行った。
そこで友達とその授業を担当していた先生の二人で、画面拡大ソフトの説明を中心に、弱視の人が使う機器についての説明をしてもらった後、今度は俺の研究室に行って、音声とキーボードを使って検索エンジンにアクセスし、その会社のホームページを検索してアクセスするデモンストレーションをした。

 それから又会議室に戻って来てから、今度は相手の方から会社で使っているソフト一覧表をいただいて、それが音声で利用できるかについての質問をいただいた。
それにはアウトルックやワードなどのマイクロソフト製品のほかに、ちょっと特別な業務用のソフトが入っていたので、使えるかどうか分かるものについてはその方法を説明して、分からないものについては、お調べしてご連絡すると言った。
そして最後に、相手の方が
「まあ詳しいことは本格的に内定となってからIT部門のものとTomG三の間でお話しして頂ければ大丈夫ですね」
とおっしゃったので、もしかすると内定が出るのではないかとかなり嬉しい気分になった。
それと同時に、もしここも駄目になってしまったらどうしようと言う不安な気持ちもあった。
実はこの前の日、先週筆記試験を受験した会社から、不採用通知が来ていたので、今のところ望みのある会社はここだけだったのである。


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