先輩の就職活動から学んだ現実


 俺が1年生の2学期に入ったばかりのある日、仲のいい先輩と将来のことについて話をしていた時のことだ。すると先輩は、
「私は盲学校に行って鍼灸の道に進もうと思っているんだ。」
とか言っていたので、俺は正直に
「先輩には鍼灸の道は向きませんよ。」
と言ってしまった。
その先輩はとても英語が得意な人で、いつも俺は英語の宿題で困ったときには助けてもらっていた。俺はこの人を見て、この人こそ鍼灸の道ではなく、通訳や旅行会社の電話受付など、何らかの形で英語に関わる仕事をすべきだと思って、そういうことを熱く語ってしまった。
 それから数週間たったある日、先輩に偶然会って飯を食いに行こうと誘われたので、暇に任せてついて行くと、
「TomG君、私やっぱり就職活動やってみることにしたんだ」
と言い出した。俺は正直自分の責任でその先輩の進む道を変えてしまったような気がしたが、やっぱりこの人は鍼灸の道に進むのはもったいないと思ったので、
「まさか俺の性じゃないですよね。本当に先輩自身そう思うのであればその方がいいですよ」
といった感じの答えをしたような気がする。

 それから先輩の就職活動は始まったが、それは本当に険しい道だった。
俺もその年の終わり頃から就職活動を始めなければならなかったので、ちょくちょく会って話を聞いてみたりしたが、その話は俺にとって残酷極まりない話だった。
まずどこの企業にエントリーしても、全盲だと言うことが原因で、「エントリーシートを見ただけで、すぐに不採用のメールが戻ってくる。そしてたまに履歴書を送ってくれと言うのが来ても、本気で先輩を採用したくて送っているのではなく、企業がエントリー社全員に機械的に送信しているものなので、送った履歴書はそのまま返されてきたり、すぐに不採用のメールや手紙が戻ってくる。就職フォーラムに言っても、目が全く見えないと言うことを話しただけで、企業の人事部の人たちは、全くと言っていいほど話を聞いてはくれないとのことだった。
つまり就職試験を受けることすら目が見えないことが障壁となってできないと言うのだ。
それだけではない。学校の先生方も、
「就職は自分で見つけるものです。インターネットで探してください」
とかのんきなことを言っていて、全然頼りになどならないと言うのだ。
(先生方のこの態度が、後に俺を怒り心頭にするのだが)
 これを聞いて俺は絶句した。今まで大変だという話を聞いたことはあっても、まさか試験そのものも受けられない程の状況であるとは正直思っていなかったからだ。
 その先輩は結局俺が2年生の6月頃に、就職活動が元で自分に自信をなくしてしまい、就職はあきらめざるを得なかった。
こんなことがあって、俺は2年生の2学期の初め頃から、だんだん焦りを感じるようになっていったのであった。

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