自己PR悪戦苦闘


 2001年も押し迫ってきたその日、学校で2003年就職希望者のための就職説明会が行われた。
この説明会が行われる前、俺はうちの学校で行う説明会なのだから、視覚障害者の就職について、その状況から面接のポイントなど、詳しく説明していただけるものとばかり思っていた。
 しかしその説明会は、俺の期待をあっさりと裏切ってくれた。
説明に立った就職担当の先生は、いきなり俺たちに「留学生のための就職ガイド」とか言う訳のわからない本を手渡して、
「就職のためのポイントはここにほとんど書いてありますので、これをよく読んで皆さんがんばってください。就職するのは皆さんです。就職はやってきませんので、自分で積極的に動くことが大切です」
と言った後、この本のポイントなどをひたすら説明した後、俺たちに年明けまでに履歴書と自己PR文を作ってくるように言うのだった。
 ところがいきなりこんな事を言われても、就職のための自己PRの書き方そのものを全く知らなかった俺には、この宿題をどうすることも出来なかった。
普通、こういうとき目の見える人であれば、書店に行けばその種の本はいくらでも売っているから、それらを参考に何とかベータ版程度は作成できるだろうが、俺たち全盲の学生にはそんなものはない。もちろん説明会でもらった本の中にはそんな例文集などという気の利いたものは入っていなかった。
 そこでそっちがそうならこっちも何とか対抗しなければならないと思い、その先生の授業中にひたすらWebを検索し、自己PRの書き方を調べた。
すると案外この手のページはたくさん存在しているらしく、俺の趣味に合ったページがすぐに見つかった。
そのページには、
「この不況の時代、一般的なリーダーシップがどうのこうのという自己PR文では企業の人には見向きもしてもらえない。さあ、人と違った自己PR文であなたの宣伝ポイントをアピールしよう」
などと書いてあった。生まれつき人と違うことをやって目立つのが好きな俺は、このページがすっかり気に入ってしまい、これを参考に自己PRを作成し、俺の卒検担当の某先生のところに持っていった。
ところが、やっぱり頭の固い教授陣のこと、昔からのリーダーシップがどうしたこうしたという自己PR文が大好きだったらしく、すぐにだめだしを食らってしまった。
 しかし、俺としてはこのPR文が気に入っていたので、だめだと叫ぶ先生を説得して、少しだけ修正を加えて、先生の意見も採り入れながら何度か書き直してやっとこさっとこ完成した。
今になって考えてみると、あのとき先生がやばいところを無理矢理削ってくれなかったら、もしかするとまずいことになっていたかもしれない。そしてこのへたくそな文章を直すのにひたすら3時間もおつきあいいただいた先生には感謝している。

おまけコーナー


 それではここで、私が就職活動に利用した自己PR文を掲載してみたいと思う。
かなりお恥ずかしい文章ではあるが、もしかすると同じように視覚障害を持っていて、就職活動を行っている方の少しでも参考になれば幸いである。

自己PR--ボランティア活動を通して学んだこと



 私は生まれたときから目がまったく見えない視覚障害者です。それゆえに、幼い頃は人の手を借りなければならないことが多く、自分に自信を持つことができませんでした。
 わたしは中学校2年から高等部2年の間、栃木学生ハムクラブの会長を務めていました。このクラブは、栃木県全体の中・高等学校に所属するアマチュア無線を愛好する学生の集まりです。このクラブにおいて、私は学校の枠を越えて他校の方々と共同の目標に向かって活動することを通して、多くのクラブ員の多様な意見をくみ取りながら組織運営することの難しさと楽しさを学びました。また、この活動を通じ、多くの健常者の友人を得ることも出来ました。この経験から、視覚障害者である私でも、健常者と同じように社会の一員として活躍できるという自信を持つことが出来ました。
 さらに、去年から始めた視覚障害者向けのパソコンサポートグループ「BLPC」の活動を通して、一生懸命やることで人の役に立てる、世の中のために自分にできることがあるということを学ぶことができました。特に印象に残っているのは、中途で全盲になった女性のパソコンサポートをしたときのことです。希望の光を失い、人生に絶望していた彼女が、私のパソコンサポートによって新しい世界に出発できたとき、この活動なしでは味わえなかった大きな喜びを感じました。
 このように人の役に立つことをすることで、自信をつけることができたことや最後までやり遂げる喜びを実感できたことなど、この活動を通して私が得ることができたことは、私の大きな宝物です。
○○大学で学んだ情報処理の知識・技能を活かし、御社のネットワーク管理並びにウェブサイトの管理・運用、またWord/Excelを使った一般事務、研究補助などの業務で即戦力として活躍できると確信し応募しました。

平成14年○月○日
○○大学情報処理学科○年 TomG


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