スクールバスと草刈り機


 栃木県立盲学校には、生徒を駅まで送り迎えするためのスクールバスがある。今では民間委託になってしまったらしいのだが、最近までは学校の用務員室に、専門のバスの運転手が勤務していた。
学校のバスだから、もちろん車庫に行けばいつでもバスにさわることができる。
 小さい子というのはなんだか大きなバスとかダンプカー、それにトラックとか消防自動車などの乗り物が大好きだ。私もご多分に漏れず、バスやトラックやダンプカーは大好きだった。
私の家のおもちゃ箱にはダンプカーのおもちゃだけで5台ぐらいあったし、他の乗り物のおもちゃもかなり入っていた。
 それはある晴れた日、担任の先生が
「今日は大きなバスをさわりに行こう。学校のバスだから車庫に行けばさわれるよ」
と言って私を連れ出した。
私は初めて乗るバスという乗り物にすっかり興奮してしまい、あっちの席に座ったり、こっちの席に座ったり、運転席に座ったりと大はしゃぎだった。
バスは走ってはいなかったが、そんなことよりも自分が今乗っているのが大きなバスだと言うことにかなり興奮して、先生が
「もう帰ろうよ」と言うまでずっとはしゃいでいた。
 それ以来私は、何かあるたびに先生に「ねぇ、バスに行こうよ」とおねだりして、止まっているバスの中で遊んでいた。
時々ではあったがバスの整備に来た運転手さんが、エンジンをかけてブレーキを踏ませてくれたり、ドアの開け閉めをさせてくれたりしたので、私はこれが楽しくてしょうがなかった。
特に私が大好きだったのは、エアブレーキを踏んで話したときの「ぷしゅん」という音だった。
それから、先生に後ろの席に座ってもらって、バスのハンドルを握って「出発進行」とやるのも大好きだった。

 それからもう一つ、私が大好きだったものがある。
それはなんと、寄宿舎の倉庫の中に入っている草刈り機だった。その草刈り機は、下に草刈り用の刃が付いていて、車いすや台車のように押して歩ける大型のものだった。それをあたかもおもちゃの車のように寄宿舎中先生と一緒に押して歩くのである。
しかし、こんな危ないものを子供に、ましては4歳の小さな子にさわらせてくれる先生はそうはおらず、唯一、一緒に草刈り機を押して寄宿舎の中を歩いてくれた森田先生という女の先生が泊まりの日がとても楽しみだった。
そんな二人を見て、他の先生は
「森田さん、子供にこんなものさわらせて、危ないじゃないの」
と言っていたのだが、なぜか先生はそういわれても、
「○ちゃん喜んでるんだもん、別にエンジン回す訳じゃないんだからいいじゃないの」
といって、毎週のように遊んでくれた。
 それにしても何でまた草刈り機なんかで遊ぶのにはまっていたのだろうか。これは未だに謎のままである。


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