勉強なんて嫌いだ


 私は幼稚部生の頃から点字の勉強とか数の勉強などがとても嫌いで、1年生になってからは毎日がそんなことばっかりに思えて1学期、学校に行くのが、というよりも授業をやるのがとてもいやで仕方がなかった。
ずっと教科書を見ながら先生の話を聞いて、数を数えたりお話を読んだりするのがなぜかとても苦痛だったのである。
しかもこのやんちゃな性格だから、いくら先生が勉強しろと言っても全く聞かなかった。
先生が見ている前で堂々とはさみを持ち出して工作を始めたり、教科書を読めといっても他の下らない質問ばかりしたり、みんなが教科書を読むのを妨害したりしていた。
こんな事だからさすがに先生も、ある日怒り心頭になり、
「○○ちゃん、あなたはみんなと一緒に勉強やらなかったんだから今から居残り勉強よ」
といって、みんなが帰っても私を帰してくれなかった。
 さすがにここまで先生に怒られ、居残りまでさせられると私も悲しくなって泣き出してしまい、寄宿舎の先生のところに帰ってからもずっと泣きやまなかったのだが、当時担任をしてくれていた寄宿舎指導員の先生は、私にこういった。
「○ちゃん、いやなことがあってもみんなと一緒にやらないとこうやって後で怖い先生に居残りさせられるんだよ。だから勉強がいやでもちゃんとやるんだよ。今勉強をがんばっておかないと、大きくなってからお仕事ができなくて、お金がもらえなくておなかがすいて死んじゃうかも知れないよ」
といって、学校で出た宿題を丁寧に教えてくれたのである。
それから私は、授業中はふざけて変な話をしなくなったし、友達の邪魔をすることもなくなった。
 ところが、一つだけどうしても私がなじめない教科があった。それは音楽だ。
この音楽の先生はなんだか冷たいような、怖いような、ともかくなじみにくい性格の先生で、声も他の先生より大きく、しかも私の大嫌いな点字楽譜をたくさん読ませられたため、すぐに拒否反応を起こし、先生の顔を見るたびに、
「先生なんか嫌いだ。来年は絶対他の先生に教えてもらうんだから」
と、本当に失礼なことばかり言っていた。
しかも合同音楽といって1年生から3年生までの生徒が一緒に合奏などを行う時間には、音楽室には行かないで、一人で教室で工作をしていたりしたこともあった。
しかし合奏をやっているとき、私は手に持って振る鈴を床に落としてしまい、それを何気なく足で拾い上げたとたん、その先生の怒りはピークに達し、
「あんた、やる気がないなら職員室の前でずっと立っていなさい」
と怒られ、綾ちゃんに私を職員室の前まで連れて行かせてしまったのである。
さすがに私も職員室の前という、みんなが通るところに立たされていると悲しくなってきて、私を置いて帰ろうとしていた綾ちゃんにしがみついて泣き出していた。
そんな私を見て優しい彼女が放っておけるはずもなく、職員室にはいると中学部のある男の先生に、
「○○ちゃんが先生にいじめられてるの。助けて。」
と言ってその先生を連れて音楽室に一緒に戻ってくれたのであった。
幸いにもその中学部の先生は、音楽の先生とは知り合いで、
「○○さん、ちょっとやりすぎじゃないですか。足で鈴を拾うことが悪いことだって言うこと、この子は知らなかったかも知れないですよ。」
と言ってくれて、私は心から謝って許してもらうことができたのであった。

 ちなみにこの音楽の先生は、この年普通の高校から盲学校に転勤したばかりで、小さな子供との接し方がよく分からなかったのだと高校生になってから聞かされた。
そしてその話の最後にこういった。
「私はね、あなたに音楽の楽しさ、楽器の大切さを本当に分かって欲しかったのよ」
と。


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