2年生郵便局


 2年生になったばかりの社会の授業で「郵便局の仕事について勉強しよう」という時間があった。
この年社会を担当したのは、私たちのクラスの担任の先生ではなく、前の年まで高校で社会を教えていた非常勤の先生だった。
 その先生は何をやるにも本格的なことが好きで、特にこの郵便局は、学校の何カ所かにポストを設置し、2年生の教室に段ボールで作った大きなカウンターまで作り、速達の受付から小包の処理、はたまた切手の販売まで本物そっくりにやることになったのである。
配達区域は盲学校の敷地内全体で、各棟に郵便番号まで作った。
切手も画用紙を正方形に切ってのりを塗って乾かして作り、折り紙または点字紙1枚というお値段で販売していたし、速達の場合は配達の人が走って持っていった。
届け先の住所が不正確だったりすると、「お届け先不明」の紙まで貼って、差出人に戻すなんてこともやっていたんだから、相当最初の頃はみんな気合いが入っていた。
しかし、いくらそんなことをしても学校内で郵便など必要になるはずもなく、誰も利用してくれなかったので、1ヶ月ぐらいやったところで、みんなほとんど郵便局のことなど忘れてしまっていた。でも、大きなカウンターは壊してしまったものの、なぜか「2年生郵便局」という看板だけははずさずに教室の前の掲示板に貼られていたのであった。

 それから何ヶ月も過ぎた冬の日の午後のこと、全く知らないお姉さんが、2年生の教室に手紙を持って現れた。
そして、教室にいた私に、
「あの、これを届けて欲しいんですけど。」
と言って渡して、走り去るように教室を出て行ってしまった。
私は一瞬びっくりしたのだが、そういえば郵便局をやっていたことを思い出し、その差出人欄に書かれた名前と住所を確認してみた。
しかし、そこに書かれた名前は全く知らない人の名前だった。
届け先も
「高等部普通科3年、○○○様」
という、全く知らない名前だった。
しかも、届け先の面に「速達」と書かれた点字シールまで貼られていた。
これを見てクラスのみんなは固まってしまった。そう、この中でこの届け先の「高等部」に行ったことのある人はいなかったのである。
いろいろ話し合った結果、なぜかこの手紙は私が配達することになり、「速達」のシールが貼ってあったので、すぐに走って届けに行った。
 その次の日、回収の係になっていた綾ちゃんが、ポストの中に久しぶりの手紙を発見した。
その届け先はなんと、昨日のお姉さんの名前だったのである。
そう、私たちの郵便局は、本物のラブレターを配達してしまったのだ。
だって、2年生郵便局でお姉さんの手紙に押した消印は「2月13日」だったのだから。
 封筒に入っていたその手紙には、
「明日○時に、○○まで来てください。」って書いてあったのだろうか。
それとも、
「これを読んだらお返事ください。」
と書いてあったのだろうか。その後その2人がどうなったのかは全く分からない。


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