このころ寄宿舎では佐々木先生という活発な女の先生が中心になり、段ボールを使った工作がブームになっていた。
これは私が小学1年生から3年生の頃まで結構長い間続き、一時は小学部の一つの部屋が工作室として割り当てられた年もあった。
私たちは佐々木先生が泊まりの日になると、この部屋に集まって戦車やトラック、ステージやエレベーターなど、大きなものをたくさん作った。
段ボールは小学部の先生の中に家が酒屋さんの先生がおり、その先生が毎週、店で余った段ボールをたくさん持ってきてくれた。
中でも一番大きな作品になったのは、「秘密基地」だった。
洗濯機が入っていた段ボール3枚を土台に使い、、何枚かの段ボールをバラバラに分解して板のようにして張り合わせて屋根を作った。
周りには秘密基地らしく、紙を丸めて作った鉄砲を貼り付けたり、屋根や壁にアルミ箔を張って、鉄でできた強そうな基地に見えるようにした。
基地の中にはいらなくなった毛布まで引き、その上に段ボールで作ったデスクを置いたりして、完成までに半年ぐらいかかって仕上げた大物だった。
そしてその秘密基地の周りには、それまでに一人一人が作った戦車やトラックなどを置いて、工作室が一つの軍隊になったような感じだった。
私たちは学校から帰って来ると毎日のようにその秘密基地の中に入って、まるで兵隊さんにでもなったかのような気分で遊んでいた。
しかし所詮は段ボールの秘密基地、ちょっとうっかり壁によりかかってしまえばすぐに崩れてしまったり、中で喧嘩でもしようものならたちまち壊れてしまう。だからこの秘密基地は、完成から1ヶ月程度で第1回目の修理をしなければならなくなってしまった。
それに加えて、高学年の悪い先輩達に壊される危険があった。
簡単に壊れない秘密基地を作りたい。
みんなの中でこの思いは日に日に大きくなって行き、段ボールから木の板へと材料を変えようとした。
工作を始めた頃はみんなはさみの使い方がへたくそで、せっかく切り抜いた段ボールの材料を無駄にしてしまったり、のりの付け方が分からなくてそこら中をのりだらけにしてしまい、掃除だけで何時間もかかったことがあったが、何回も失敗を繰り返していくうちにどんどん慣れてきて、このころになるとみんながカッターを自由に使いこなせるまでになっていた。
佐々木先生も、ここまでカッターやはさみが使えれば木工はできると思っていて、壊れない秘密基地は設計図の段階まで話が進んでいた。
ところが、他の先生方から、
「夜にお風呂に入った後、木工をやるのはまずいだろう」
という声が出たことをきっかけに、私たちは次の工作への楽しみを見いだせなくなってしまった。
そんなわけで夜の工作は、その年で終わってしまったのだが、この後ある映画がきっかけで、私たちはもっとすごいものを作ることになる。