恐怖のお仕置き棒


 私が小学校2年生のころ、二つ上の4年生の担任の先生で、宿題を忘れたり、言葉遣いが悪かったりすると、お仕置き棒という棒を使って生徒を叩く、石島先生という先生がいた。
お仕置き棒で叩かれる理由としては、宿題忘れ、忘れ物、整理整頓ができていなくて3回以上怒られる、言葉遣いが悪い、日記の間違いが1日5カ所以上見つかるなど、多種に及んでいた。
 夏休みの宿題を忘れてこの棒で叩かれ、1週間ぐらいおしりを腫らしていた上級生を何度も見たし、寄宿舎に忘れ物をして取りに来る前に先生に見つかり、お仕置き棒で叩かれたという話を聞いたこともあった。
これを見て私たちは、この先生が本当に恐ろしかったのだが、やはり他のクラスのこと、「かわいそうに」程度にしか考えていなかった。

 ところが3年生になったその日、学校の担任発表を見て、私たちは全員震え上がることになる。教頭先生が私たちのクラスの担任の先生として読み上げたのは、
「3年生、石島先生」
そう、なんとこの先生が担任になってしまったのである。
それからさすがのやんちゃ坊主だった私も、このお仕置き棒をおそれ、相当いい子に成長していった。
しかし、人間というのはやはりミスを犯すことはあるもので、最初このお仕置き棒の犠牲になったのは賢ちゃんだった。
このときのお仕置き棒の原因は、「日記の間違いが多すぎる」だった。
性格の悪い私は、これを見ていて「いい気味だ」と思っていたのだが、やっぱり日頃の行いが悪いと自分に災いは降りかかってくるもので、同じ理由で私もお仕置き棒で叩かれる羽目になってしまったのである。
 この先生、最初は棒で叩くのではなく、手でお尻を叩くお仕置きをしていたらしいのだが、前に担任をしていたクラスの生徒が、あまりにも悪いことばかりするので、毎日おしりを手で叩いているうちに、手が痛くて仕方が無くなったのだという。
そこで最初は壁紙の芯をどこかから持ってきてお仕置き棒にしていたらしいのだが、それもすぐに壊れてしまい、なんと私たちの担任をする頃には絨毯の芯をお仕置き棒にし始めていた。
今は先生が子供を棒でなんか叩いたら、えらい勢いで問題になるが、このころは怪我さえしなければそんなに大きな問題にはならなかった。
 私たちもなんと素直なことに、悪いことをしたんだから仕方がないかな?みたいな雰囲気があったのだから恐ろしい。
これだけ書くとこの先生はかなり恐ろしい先生だと思われてしまうかもしれないのだが、お仕置き棒を振り回しているとき以外はとても優しい先生で、分からないことは生徒が納得するまで徹底的に教えてくれたし、何よりも休み時間には職員室に戻らず、生徒達ととっくみあいをしたりして遊んでいるような先生だった。
 しかしある日の道徳の時間、
「武器を使って人を傷つけることはいけないことだ」
のようなテーマが取り上げられたとき、私を始めクラスのみんなは「先生はいけない人だ」と思った。そしてそのカセットテープが終わった瞬間、
「先生は武器を使って僕たちを叩くなんていけないんだ、いけないんだ、い〜けないんだ〜」
という話になり、先生も、
「たしかによく考えてみるとこの棒はやりすぎだ。これからは手のお仕置きに戻すことにする」
といって、その時間にみんなでお仕置き棒をカッターやはさみで切り刻み、やっとの事で私たちはこの恐怖のお仕置き棒から解放されたのであった。


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