マッサージして


 石島先生といえばやっぱり思い出に残っているのがこのマッサージだ。
私たちの学校の教室は、教室の後ろ側に着替えをするための絨毯があった。
ところがその年の3年生の教室には、なんと絨毯ではなく4畳の畳が敷いてあった。
 石島先生は野球が好きで、野球大会の次の日など、休み時間に畳の上に横になると、
「おまえら、マッサージしてくれよ」
と私たちに頼むのだった。
 そういわれると私たちも調子にのって、先生を取り囲み、足、腰、背中、肩と首に分けて4人で一生懸命マッサージを始めた。
私たちが一生懸命マッサージをするのには大きな理由がある。勉強をやりたくないからだ。
この先生はマッサージされるのがとても大好きで、私たちが一生懸命気合いを入れて気持ちよくしてしまうと、時間を忘れて子供の頃のことや昔の盲学校の話、そして先生がやっているバンドの話などを語り出すという癖があった。
だから私たちは、授業をやりたくないときや算数の時間の前など、特に気合いを入れてマッサージをした。
 もう一つ、私たちがマッサージを一生懸命にやる理由があった。それは、「お仕置き棒の仕返しをする」ことだ。
先生はマッサージをされているときは、気持ちよさそうに体中の力を抜いて、本当に安心しきった様子でだらんと寝そべっている。
私たちは先生への仕返しをする日は、朝教室に集まると計画を練り、先生が気持ちよくなった頃、みんなが徐々に先生の手や足、そして肩の辺りを封印していく作戦をとる。
具体的には、足のマッサージを担当している人が、両足にまたがって太股のマッサージを始め、腰のマッサージを担当している人がおしりの上に乗り、全体重を使って腰をマッサージして先生を気持ちよくしてしまう。
これができあがってきた頃に、首のマッサージをしている人が、さりげなく片手にまたがってしまう。ここまでできれば背中の担当者はもう片方の手に乗り、腰の担当者が背中の方に写ってくる。
さすがの大人でも4人の子供達にこうやって押さえ込まれてしまうと動けなくなる。
すると学級委員長が一言、
「くすぐれーー!」
と叫ぶのである。
私たちはおしりで先生を押さえており、手の方は完全に自由がきくので、そのかけ声と同時に先生の脇の下や肋骨の部分、首の後ろなどそれぞれが弱点となる場所を重点的にくすぐるという先方である。
すると先生は授業中にもかかわらず、大声をあげて笑い出し、生徒に
「先生、授業中ですよ。静かにしてくださいよ」
と言われる羽目になる。もちろん、
「おまえらがくすぐるからこうなるんだろう」
と言いたいのだろうが、そんな余裕は何処にもない。だって、4人が4人、先生のもっとも弱い弱点の部分をくすぐっているのだから。
 そんなわけで授業をつぶしたいときやお仕置き棒で叩かれた仲間の敵討ちをしたいときは、私たちは甘い言葉で先生を畳に誘き寄せ、こうやって気が済むまでくすぐるのであった。


次へ

自伝の目次に戻る

エッセーコーナーに戻る

トップページに戻る