お医者さんごっこといえば、お店屋さんごっこ、おままごとに次いで小さい子のやる遊びの代表格ではないだろうか。
私たちの寄宿舎でもこの「お医者さんごっこ」がはやった時期がある。
しかもなぜか本物の包帯や薬品などをこっそりどこかから調達してくる人がいたのだから本格的だった。
さて、これらの薬や包帯などの道具をどこから持ってくるかというと、それは先生がいないのを見計らって保健室からちょっくら調達してきたり、親の留守を見計らって自宅の救急箱からこっそりちょうだいしてくるのである。
一部屋でこういうことが始まると、小学部全体にお医者さんごっこが広まっていき、部屋の入り口に、
「栃木県立盲学校中央病院」
とか、「10号赤十字社」などという張り紙が張られるようになった。
さて、この小学部の病院というのはどんな治療をしていたのだろうか。ちょっとここで紹介してみよう。
まずもっとも多く行っていたのはマッサージだ。
マッサージは道具が必要ないので手軽なこともあり、この治療がほとんどだった。
盲学校といえばマッサージのイメージがあるのでこれは当然出てくる発想だ。しかももっと面白かったのは、本当に時々ではあるが、この病院に高等部のお兄さんの中で小学生と仲の良かった人が、「指導医」とか言って乗り込んできたりしたことだ。
その人は、保健理療科の生徒で、本当にマッサージを習っている人だったから、私たちは肩や腰の揉み方を教えてもらったりしていた。
もちろんおばさん世代の多い寄宿舎指導員の先生達にはこのマッサージは大人気だった。
もう一つ行っていた治療は「温湿布」だ。
これは調理室から熱湯を詰めた瓶を調達してきてそれにタオルを巻き、頸や肩を暖めるというものだ。
お湯と瓶を使うだけなので簡単だったから、この治療もずいぶんやった。
これもマッサージに次いで先生にはとても人気があった。
もちろん温湿布の反対で「冷湿布」もある。熱湯の代わりに氷水を使えばいいのだ。
このほかにこのミニ病院には台車を使った救急車まで配備されていて、校内にけが人が出ると、いち早く駆けつけ、テープに録音した「ピーポーピーポー」という音を鳴らしながら、
「救急車が通ります。危ないですから廊下の端によって止まってください。」
としゃべりながら、怪我をした人を運んだのである。
もちろんこの怪我がミニ病院にある薬品や包帯で間に合わないとなれば、保健室まで救急車は走っていった。
またこのミニ病院は、冬になって寄宿舎内に病人が蔓延すると(といってもただの風邪)、その人の部屋を定期的に巡回していたりもした。もちろん風邪を引いている人のそばに定期的によるのでどうなったか。そう、ほとんどのミニお医者さんが風邪を引き、本物のお医者さんのお世話になるのであった。