私が小学2年生の後半から、寄宿舎の中には小さな会社ができるようになった。
もちろん小学生のやる遊びの会社なので、そんなに大きなものを売っていたわけではなく、なんと商品は「段ボール製品」だった。
たとえば、段ボールでギターを作って売り始めるやつがいるかと思うと、段ボールを切り抜いてコンピューターの形を作り、それを売り始める人までいた。
売ると言ってもお金として通用したのは点字紙だ。
たとえば段ボールで作ったギターは点字紙2枚ぐらいで変えたし、コンピューターは小さなものなら点字紙4枚ぐらいからあった。
たかが段ボール作品だからといって馬鹿にしてはいけない。
毎週のように工作をやり、秘密基地や戦車やトラックなどを作っていたやつらがこしらえるから、それなりに一つ一つの作品にはこだわりがある。
段ボールで作ったギターは、ちゃんとギターの形をしていて、すぐには壊れたりしないように段ボールを4枚ぐらい重ねて作られていたし、高級なものになると弦まで張られていた。また、それらの高級なものはネックのところにいろいろなスイッチが付いていたり、頸から書けるためのひもが付いているものもあった。それに加えてもっと高級品になると、ニスを塗ってつるつるに仕上げ、本物の手触りを再現していたものもあった。
コンピューターは単に形を再現するだけではなく、正方形に切り抜いた小さな段ボールをキーとして貼り付け、その下には蛇腹折りした紙を入れたので、ちゃんと押している感覚があった。
もちろんキーを押したときに押した感覚のちゃんとあるようなものはお値段が高く、持っている人は少なかった。
しかし、所詮キーの下に入っているのは紙の蛇腹なので、遊んでいるとキーが下に下がったまま動かなくなったりして、修理に持っていったりすることもあった。
また、段ボールの1面を切り抜き、そこにビニールを張ったディスプレイも別売りで用意されていた。
もちろん、それらの製品にはちゃんと保証書も付いていたし、点字で書いた取扱説明書まで添付されていた。
取扱説明書には、段ボールで作っただけの製品のくせに「この製品は、高音・多湿の場所には置かないでください」とか、「静電気に気を付けてください」とか、「分解すると感電する場合がございます」なんて書いてあったのだから笑ってしまう。
それらの会社は部屋ごとに構成されていて、部屋長がいわば社長のような感じだった。
そうして買ったものをどんな風に使うかというと、それは工作室の事務所に持っていったり、ギターなどは夜に音楽をかけながら「ライブごっこ」をやると言ったように、段ボールを使っていろいろな遊びをやっていた。
中でも儲かっていたのは「芝滑りようのそり」を作っていた部屋だった。
寄宿舎小学部の中庭には築山といわれる丸い形の山があり、晴れた日にはそこで芝滑りを楽しむことが多かった。芝滑りようのそりは、何度も使っていると破れるので、段ボールを調達してきてちょうどいい大きさに切ったそりは、日によっては一人3個ぐらい使ってしまうこともあった。
しかし、そのうちに段ボールが無くなってきた頃、先生が小学部の予算を使って本物のプラスティックでできたそりを買ってしまったため、その部屋は儲からなくなってしまった。