KBS こちらは子供放送です


 私が小学校6年生の秋のこと、ついに前々から欲しかったFMワイヤレスマイクをホームセンターで発見した。
しかもそれは、私が想像していたよりもずっと安い値段で売られていたので、私は飛びつくようにしてその製品をかごに入れていた。
 私が購入したワイヤレスマイクは、周波数が78MHzに設定されており、これではベイFMと重なってしまうため、最初ちょっとがっかりしたのだが、箱の中に周波数調整用のドライバーが入っており、それをマイクの側面の穴に差し込んで送信周波数を変更することができた。
そこで私は、前々からミニFMをやるときは絶対にこれにしようと決めていた周波数「77.5MHz」に周波数をあわせ、ラジオのスイッチを入れて声を出してみると、今までできなかった生放送ができた。
これまで私は、ワイヤレスヘッドフォン搭載のウォークマンを使ってFMラジオごっこをやっていたのだが、やはりラジオは生放送がいいと思っていたし、10メートルぐらいしか飛ばないことにも嫌気がさしていた。
このワイヤレスマイクがそんな私の心に火を付けないはずが泣く、すぐにラジカセをマイクの前に置き、音楽を流したりしてラジオ放送をやってみた。
すると、思っていたよりもましな音で音楽を流すことができたし、マイクの感度も良かったので、音楽のボリュームを少し下げて上げれば、トークのバックで音楽を流すことも簡単にできた。
 そこで早速私はそのマイクを寄宿舎に持っていくと、その週の月曜日の午後2時頃から放送を開始した。
放送局名は「KBS 子供放送」だった。
 本当に自分の出した声がすぐにラジオから聞こえてくるので、この遊びは相当人気があった。
先生方まで私の部屋に現れ、マイクの前でしゃべり出す始末。
しかも、小学部棟というのは寄宿舎のほぼ真ん中にあり、女子棟、男子棟、管理棟のほとんどにこのマイク1本で放送が届いたのである。
 そこで早速みんなで番組表を書き、その日から本格的な放送が始まった。
どんな番組を放送したかと言えば、やっぱりフリートークが中心で、視聴者からのリクエストも募集した。
リクエストは部屋の前にポストを置き、その中に点字で書いて入れてもらうか、その日の番組担当者に手渡してもらうことにしていた。
番組の担当者は毎日代わり、時間は7時から8時までの1時間の生放送だった。
その途中には、昼間勤務していた先生が録音していった番組を流したりもした。
たとえば聾学校から転勤してきた先生が行っていた「手話講座」などがあった。
番組の最後にはニュースと天気予報まで放送した。
ニュースは担当者がその日に寄宿舎内であった出来事を取り上げて原稿を書き、天気予報は177番を録音してそれをわざわざ点字の原稿に起こして放送した。
ところが、これはかなり面倒くさく、数日間やったところでみんな参り始めた。
特に天気予報のテープ起こしはみんながもっともいやがる仕事だった。
そこで4日後ぐらいには、みんなで練習して、天気予報はイヤフォンでテープを聴きながら、その通りにしゃべるという方法で行うようになっていた。
 ニュースの方は視聴者からもなかなかの人気があり、「面白かったよ」とか「ふーん、そんなこともあったんだ」などと反応があったのでみんなやりがいを感じ、かなり気合いが入って放送局が終了するまで続いた。
ニュースの中で必要があれば、テープレコーダーを持って取材に行って録音してきたインタビューを流すこともあった。

 これが私が行った最初の本格的なミニFM放送だった。


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