突然の嬉しい知らせ


 それは高校1年生の秋のことだった。
放課後帰り支度をしていた私の元に、国語の渡辺先生がやってきた。
先生はいつもの穏やかな表情とは違い、足音が弾んでいるのでまた何か面白い話でもしに来たのかと思ったものだ。
国語の渡辺先生は、演劇部の顧問をしており、授業中けっこう所帯じみた雑談をしていたりしたので、私たちのクラスにとっては担任の先生の次ぐらいによく話す先生で、ほとんどの生徒から好かれている先生だった。
 教室に入ってきた渡辺先生は、いきなり私の肩を叩くと、
「あんた、先生びっくりしちゃった。あのね、夏休みに書いてもらった人権に関する作文なんだけど、先生がちょっとばかり手直しして出しておいたのよ。そしたらね、なんと最優秀賞になったんだって。」
それを聞いても私は「へぇ、人権に関する作文のことね」程度に思っただけで、
「ああ、そうだったんですか。それは良かったです。」
と言って帰ろうとした。すると先生はいつも授業中に私たちが宿題を忘れたときに見せるような不服そうな顔をして、
「あんた何でそんなに反応薄いの?あのね、これがどんなことか分かってる?」
と言うのである。私は正直に、
「人権に関する作文って、うちの学校で募集してたあれですよね。」
と答えた。ところが、私がてっきりうちの学校内で最優秀賞になったのかと思っていたこの話は、なんと栃木県内の高校生の中から募集した3000件以上の作文の中からの最優秀賞だったのだ。
それを聞いて初めて、私は自分がいかに大きな賞を受賞したのか認識でき、そこで初めて、
「えーっ、あんな変な作文がこんなことになったんですか?」
と叫んでいた。

 その次の日、栃木県庁から童話対策課の職員の方が校長室にやってきて、私も今後のことの打ち合わせに行って、自分の受賞した賞の大きさをさらに実感した。
この賞を取ると、宇都宮市文化会館の大ホールで行われる作文発表会で自分の書いた作文を朗読しなければならないこと、また、栃木放送の「県民の窓」というラジオ番組に出演して、インタビューを受けることになるなど、そのどれもこれもが私が初めて経験する内容だった。
ところが、その発表会は期末試験当日に当たっていたため、午後に試験を休んで行かなければならなかった。
そのため試験勉強が忙しく、作文の朗読の演習を行う暇がほとんど無く、発表会ではけっこう間違えてしまい、なかなか恥ずかしい思いをすることになった。
また、発表会当日、毎日新聞の記者の方が来ており、インタビューを受けた。この記事は栃木県版の同新聞にけっこう大きく写真入りで出ていたそうである。
 栃木放送でのインタビューの方は、前の日に先生が台本をテープに録音してくれたものを、点字で書いて持っていった。
普段からミニFMのマイクの前でしゃべっていることもあり、スタジオに入ってもほとんど緊張しなかったので、こちらの方はなかなかのできばえだった。
この番組のカセットテープは実家に置いてあるのだが、まだ栃木放送さんから著作権の許諾をとれていないのでアップできないでいる。

 このことがきっかけとなって、私の高校生活はどんどん幸運に恵まれたものになってくるのだった。


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