昼夜逆転


 そんな風にして仕事をする両親のそばできゃあきゃあとかがらがらとか音をたてながら騒がしく遊んでいた私だったが、ある時期を過ぎた辺りから異変が起き始めた。
なぜか仕事をしていても息子の声が聞こえないと思って両親がのぞき込むと、私は気持ちよさそうにすやすやと寝息を立てて寝続けるのだった。
そんな私を見て、母はなんだか変な胸騒ぎを覚えていた。
それでなくても私は兄に比べて夜泣きがひどく、いったん泣き出してしまうと母がどんなに揺すっても、父がどんなにあやしても数時間は泣き続けていたのだという。
そんなときは、私を車に乗せて、近くをしばらく回ってくると、車の揺れが大好きだった私は、やっと寝付いてくれるという有様だった。
 昼間すやすやと眠る私を見た母は、それでなくても夜泣きがひどいのに、これはまた、夜に起き出して大変なことになると直感したのであった。
その予感はその日のうちに的中し、私は日が沈む頃になって起き出したかと思うと、夜中じゅう眠らずに、夜泣きをしたりその辺をごろごろ転がったりと、いつもの昼間と全く同じ行動を取り始めてしまったのだった。
 そこで何とかこれを元に戻そうと、父も母も仕事中交代交代で私を起こしたが、農家という仕事は結構手が離せなくなることが多く、隙を見ては私はすやすやと気持ちよさそうに眠り、夜になると起き出して両親を困らせるといった毎日が続いた。
特に母などは夜寝ずに昼間働くので、半分気が狂いそうな状態になってしまい、とうとうある日、病院に診察に行った際、医師に相談して赤ちゃん用の眠り薬を処方してもらったのだという。
そのとき両親は、「この子はずっと昼夜の区別ができないのではないか」と心配になった。
 今でこそ私は頭の中で時間という感覚を作り、日が差せば暖かさで目を覚ましたりするのだが、周囲の明るさだけを頼りにして昼夜を区別している赤ん坊にとって、目が見えないということは下手をするとこんなことになってしまうのだ。


次へ

自伝の目次に戻る

エッセーコーナーに戻る

トップページに戻る