初めての彼女


 今考えてみると、この年は私にとって良いことばかりの年だった。
6月の放送コンテストでは納得のいく結果を出すことができたり、前々から欲しいと思っていた「放送部の仲間」もできた。
また夏に山形で行われた「全国高等学校総合文化祭」の帰り道、鹿沼高校という盲学校の近くの高校の放送部の生徒と遊びに行ったり、オーストラリアに出かけたりと、本当に充実した1年だったと思う。
 そしてもう一つ、私にとって初めての彼女ができたのもこの年だった。
当時の彼女Mとは、夏休みに行ったオーストラリア旅行で知り合った。
詳しくはこちらをご覧いただきたいのだが、彼女とは飛行機の中で意気投合し、旅行期間中ほとんど一緒に過ごした。
しかし、正直なところ私は彼女に「いい友達」の印象はあったものの、「好き」という感情にまでは至っていなかった。
 それはオーストラリアから帰ってきてから3日後、彼女の家に遊びに行ったときのことである。
彼女は全盲で普通の学校に通っており、パソコンが使えないと大変困ると言うことで、それならばと私はと喜んでさいたま市まで行ったのである。
彼女の部屋でパソコンを教えている途中、彼女の友達から電話がかかってきたときのこと、私は自分の耳を疑った。
彼女の家のコードレス電話の音量が大きかったことと、その友達の声が甲高くて大きかったことで、悪いとは思いつつも、その友達の声が私にもしっかりと聞こえていた。
その友達はいきなり、大きな声で、
「あんたさぁ、いま好きな人来ているんだったら、さっさと告白しちゃいなさいよ。」
と言ったのである。
彼女はその電話を切った後、「ねぇ、今の話聞こえた?」と言ったのだが、私は、
「いや、パソコンいじっていて全然聞こえなかった」
とごまかしてしまった。
ところが、私が帰る少し前のこと、その家で夕食をごちそうになっているときに、彼女の両親が消えた隙を狙って、正面から
「さっきの電話の話だけど、実は聞こえてたでしょう。私実はTomGが好きになっちゃったんだ」
と言われたのである。
私はそのとき正直自分を好きだと言ってくれたことは嬉しかったのだが、彼女に対して恋愛感情をほとんど持っていなかったため、
「俺みたいな奴がおまえを好きになると、遠すぎるしおまえに迷惑書けるからつきあうのは無理。もし好きだったとしてもお互い全盲だし、距離も遠いから、俺はおまえを好きになったりしちゃいけないんだよ」
と言っていた。今考えてみるとこれって最悪な断り方だったと思う。
 それからも彼女からの電話は毎夜のように続いていた。
私は彼女が嫌いではなかったし、むしろ友達としてずっと仲良くしたいと思っていたので、楽しく電話をしていた。
しかし、その話の中で彼女が見せるかわいさや優しさを感じるたびに、そんなところに魅かれてしまっていることに気が付くのにそうは時間がかからなかった。
 そして9月の6日、とうとう私は自分の気持ちを彼女に告白したのである。
そしてその後私たちは、栃木県と埼玉県の遠距離、そしてお互い全盲という障害を乗り越えながら1年間つきあうことになる。


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