突然の出会い


 それは大学1年の2学期が始まったばかりのことだった。
プログラミングの時間が終わった後、いきなり私たちの教室に2年生の先輩方が集まってきた。
このことについて何も聞いていなかった私は、これから何が始まるんだろうとどきどきしたが、ともかく2年生の先輩方のほとんどが集まってきているので、帰っては行けないような気がした。
そして隣の席にいたA君に聞いてみると、どうもこれはその年の学園祭の情報処理学科の企画に関する相談で、私のところにだけ連絡を回すのを忘れていたらしい。
2年生の先輩方を全員見たのはこのときが初めてだった。1学期でやめてしまったサークルの先輩は知っていたが、そのサークルに入っていなかった先輩とは会う機械がほとんど無く、噂で聞いている人以外名前すら知らなかった。また、従来酒の席が苦手な私は、新歓コンパにも出席していなかったから余計である。

 情報処理学科の企画は、視覚障害補償機器の展示会だった。
これはほとんど毎年恒例らしく、この話し合いでは具体的にどんなソフトとどんなパソコンを展示するか、また音声関連のソフトの担当者は誰で、拡大読書機や画面拡大ソフトなどの弱視者向けの部門の係は誰かなどといった内容だった。
どうせ私たちはほとんど仕事はなく、先輩方が中心になって進めると思っていた私は、その会議が進行するにつれて見えてきたこの学校の現状に驚かされた。
なんと、先輩方のほとんどが弱視で、2人いる全盲の先輩も、パソコンには全く詳しくないので、誰か1年生の中でスクリーンリーダーとか音声ブラウザなどの部門の主任をやって欲しいというのである。
こんな方向に話が進んでくると、うちのクラスの中で2人しかいない全盲の中で、私の方に話の矛先が向かないはずがない。
運が悪いことに、私は2年生の先輩のMS-DOSのパソコンを修理しに行った経験があったので、やっぱり私のところにこういう面倒な役が回ってきてしまった。
 その会議が終わった後、私が帰ろうとすると、名前だけしか知らなかった先輩にいきなり呼び止められた。
なんでこの先輩の名前だけを知っていたかというと、実は彼女は私の盲学校時代の先輩(M先輩)の彼女だったからだ。
当時3年生だったM先輩は、この年からアメリカに留学していたため休学中で、学校で会うことはほとんど無かったが、入学前にいろいろと電話でこの学校について教えてもらっていた。
その中でお互いの彼女の話になり、名前を聞いたことがあったのだ。
彼女の方も同じようにして私の名前を聞いたことがあったらしく、前から私を捜していたらしいのだが、お互い全盲であることとクラスが違うことが重なって、この日まで話すことは全くなかったというわけだ。
それから私たちは、M先輩の話題を中心に、寄宿舎の強要棟前で2時間程度盛り上がった。
もちろんそのときした話はM先輩のことばかりではない。
前にも書いたように私は、歩行訓練をしてくれる人がいなくてこの学校の周りを全く知らないことや、クラスの人たちのほとんどが弱視なので、全盲同士の悩みが話せないなどの今までたまっていた不満を彼女に打ち明けていた。
すると彼女も1年生の頃歩行訓練ではかなり苦労したし、2年生にも全盲の人は少なかったので、全盲の話し相手を捜していたと言うことで、私たちはすっかり意気投合してしまった。
その中で彼女は、パソコンがおかしいから直して欲しいと行っていたのだが、まさか女の子の部屋に私が行って修理をするわけにも行かず、そのときは部屋に帰ってきてしまった。

 その次の日、私は彼女のメールアドレスを調べ、パソコン修理のことを相談する内容のメールを書いた。
そしてそのメールを送信してから1時間ぐらい後、窓を開けて洗濯物を干していると、電話のベルが鳴った。
洗濯かごを置いて受話器を取ると、その電話は彼女からだった。
そしてもし時間があるなら今からこの部屋にノートパソコンを持って来るので、修理をやって欲しいと言うことだった。
ちょうど休みで何をする予定もなかったので、私はすぐにOKした。
その日から私と彼女とのメールと電話でのやりとりが始まり、1週間後には歩行訓練をやってもらったり、彼女の作った料理の残りを持ってきてくれたりするようになった。
私はこのとき、何か大変なことになりそうなにおいを感じていたが、やはり同じ全盲の相談相手ができたということでとても嬉しくてたまらなかった。


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