突然の一言


 4月後半のある日、学校から帰った私は、いつものようにパソコンの電源を入れ、メールをチェックした。
このころの私は、ドメインを取得したばかりで、その独自ドメインのメールアドレスの方に何かメールは来ていないだろうかとチェックするのが楽しみだった。
しかし、こんな私のメールボックスには、サーバーからのお知らせメールとか、その他どうでも言いメールばかりしか入ってきていないことがほとんどだった。
しかしその日は違っていた。
全く見たこともないアドレスから「初めまして」というタイトルのメールが来ていた。
ちなみにこのメール、今でも大切に保存してあるのだが、ここで公開する訳にはいかないのでかいつまんで書くと、要するに「卒業制作でバリアフリーWebの研究をするから手伝って欲しい」という話だった。
私はこういうことは大好きだったし、何よりも全く知らない大学生、しかも女の子からのメールだったこともあり、迷わずOKの返事を書いた。
すると次の日、その子からメールが来て、電話で話をしようと言うことになった。
電話は夜9時頃にかかってくることになっていたので、それまで私は友達とネットミーティングで話をしていたのだが、なんと予定時間の1時間前に、彼女からの電話はかかってきた。
 彼女は沖縄の大学生で、視覚伝達デザインを中心に勉強している4年生だった。
とても元気な子で、積極的な感じがしたから、私も久しぶりに楽しくて、その日は余計なことまで含めて2時間以上も話をした。
それから何回か電話やメールのやりとりはあったのだが、8月の最後の週に、なんと彼女は筑波に遊びに来たのだ。
 地元のバス停まで迎えに行って、部屋に戻ってきてから少し休んだ後、卒業研究関連の話でもすると思ったのだが、彼女はどうもいつまでたっても余計なことばかりやっていて本題に入ろうとしない。
私はいったいこの子は何を考えているんだろうと思ったが、こちらも下らない話の方が面白かったので、1度
「余計な話ばっかりだけど本題に入らなくていいの?」
と聞いたきり、その日も次の日も話をしたり一緒にご飯を食べたりしていた。
そしていよいよ彼女が帰る前の日の夜遅く、やっと本題のWebのバリアフリーについての話をし始めた。
その話の中で私が、
「あまりにも画像中心のWebページが多くて、最近つまらなくてしょうがない」
という話をして、「全く、駄目な企業とかページを晒し者にするページでも作ろうかな」
とつぶやいたとき、次に彼女の口から出た言葉が私の心を貫いた。
「それはまずいと思う。TomGは画像ばっかりのサイトってつまらないって言うけど、ずっと視覚伝達デザイン勉強してきた私に言わせてもらえば、『テキストばっかりのサイトなんてつまらないもん』」
これは私にとってとどめの一撃と言っても過言ではないほどに、心の奥まで突き刺さった。
大げさだといわれるかも知れないが、この言葉はすなわち、画像の見えない視覚障害者の私には、晴眼者の人を楽しませられるようなページが作れないことを意味していたのだ。
 次の日彼女が帰った後も、私はこのことが気になって、そして悔しくて、何日か眠れない日が続いたほどだった。
でも、とあるテキストサイトを見ていて思った。
「人はそれぞれみんな違う。だから面白いと思うものは人によって違う。もしかすると画像の無いサイトでも、面白いと思ってくれる人はいるかも知れない。
やろう。すべての人が面白いと思ってくれなくてもいいじゃないか。一人でもいい、ここを見て何かを感じたり元気になったり、何か分からないことが解決できたり、究極には暇つぶしになるだけでもいいじゃないか」
そう思った日から、私はさらにやる気が出てきた。
それと同時に、今までよりもアクセス数が気にならなくなった。
 これから私は自分の視覚障害という個性のために、人とはちょっと違った体験をしていくことだろう。
また、夢を叶えるためにいくつもの困難にぶち当たっていくことは確実に分かっている。
そんな経験を少しでも多くこのホームページに書いていくことで、見てくれている人がそれから何かを感じ取ったり、元気になってくれたり、困っていたことが解決できれば、私にとってこれほど嬉しいことはない。


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