内定者オリエンテーション


 それは10月中旬の木曜日、私はいつものように学校に行き、つまらない授業を聞いていた。
すると、就職部の主任の先生が教室にやってきて、
「TomG君、なんだか○○○○っていう会社の○○っていう人から電話なんだけど」
と言われた。その会社は私が6月に内定をいただいていた会社だったので、すぐに先生の部屋に行って電話に出ると、次の週の金曜日に内定者オリエンテーションを行うので集まってくださいという話だった。
これを聞いたとき、私は突然のことでびっくりしたのだが、ともかく会社からの話と言うことで、何とかガイドヘルパーを手配して行かせて頂きますと返事をし、電話を切った。
 私がこの会社に行くのは実は試験を受けた日以来2回目で、ガイドヘルパー無しではとても不安だった。また、同期の人がどんな人たちなのか、会社に行っても自分はおいて行かれてしまったり、厄介者扱いされてしまわないだろうかととても不安だった。
 そしていよいよそのオリエンテーションの日、会議室に入った私はかなりどきどきしていた。
周りにいる仲間になんと話しかけて良いのか、いつどの辺の人に話しかけたら伊野かタイミングをつかめないでいた。
実は私ともう一人の人以外は、1度6月に集まっていたため、すでに楽しそうにいろいろな話をしていた。
私も何とかこの話に入ろうと思ったが、名前すらまだ分からないので、とりあえず自己紹介の時間を待つことにした。
 ところが、その自己紹介が始まって私はかなり驚いた。それは、短大卒の人が私だけなのはもちろん、他の仲間はほとんど、有名大学といわれる大学の人だった。
しかも、その後行われたプレゼンテーションでは、みんな本当にきちんと自分の意見をまとめ、論理的ですばらしい発表をしていた。
はっきり言って、この中で一番頭の悪いのは私に間違いない。
私はこんなすばらしい人たちの中にふらふらと入り込んでしまって本当にやっていけるのだろうかと、正直心配でたまらなかった。
というか、医までも十分不安なのだが・・・。
ともかく何とか自分という存在を知って欲しくて、私は一人一人の発表の後に行われる質疑応答の時間に、必ず一つずつ質問をすることにした。
また、ここで積極的にならなければやばいとおもい、その発表に関して何か意見があればどんどん発言するようにした。
 意見発表会の後は、会社のボーリング大会に参加した。
私たち内定者は、バラバラになって会社の人たちのチームの中に入ってプレーした。
私はボーリングをやるのが初めてだったため、ここでも不安だったのだが、チームの方全員が、代わる代わる私の手を取って、とても親切にやり方を教えてくれた。
そして、私がピンを倒すと、皆さん自分のことのように手を叩いて喜んでくれ、下手な私を励ましてくださった。
それで、最後の頃にはボーリングがすっかり楽しくなってしまった。
このおかげで、これまで抱えていた不安や心配は消えていき、「本当にこの会社で来年から働くことができるようになって良かった」と感じていた。
 ボーリングの後行った飲み会では、同期の仲間ともうち解けることができ、すぐに楽しい話ができるようになった。
見えない私が周りに誰がいるか分からずにぼうっとしていると、代わる代わるいろいろな人が私の隣に座って話しかけてくれたり、さりげなく出ている料理を取るのを手伝ってくれたりしたので、本当に嬉しかった。
 実は、今まで私は、晴眼者の人と飲み会に行っても、自分で好きなものもとれなかったし、とってもらうのにも気を遣ったりして、自分が荷物になっているような劣等感を感じた。
でも、このときはそれを感じることはなかった。
むしろ、来年から同じ職場で働く仲間として、自然にとけ込んでいくことができたように感じた。
 この後12月にもオリエンテーションがあったのだが、このときもみんな仲間は親切で、普通の同期の一人として私を見てくれていると感じた。
会社の方々も、私が4月からなるべくよく働けるように、いろいろと相談に乗ってくださっているし、なんと部屋探しにも協力してくださった。
子の優しさと私を採用してくださったことに答えられるように、4月からは一生懸命に仕事をしていきたいと思う。


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